A Midnight Music Box その5




「王子様があの姫を探してらっしゃるんですって。」
「そうそう。今日うちにもいらっしゃるって!」

!!

義姉達の噂話を耳にしてリネは内心ビックリした。
(まさか本気だったの!?)

終わってから2週間。
新しい妃の発表がなかなかないと思っていたら本気で探すつもりだったようだ。

(見つかるわけないのに・・・)
でもどこかで期待している自分もいる。もし気づいてくれたら、と・・・
「バカみたい・・・」
その言葉は誰にも聞こえなかった。


「リネ!」
「あ、はい!?」
継母の声に我に返って慌てて返事をする。
「ちょっとついておいで。」
「? ・・・はい。」



「先に入りなさい。」
「ここ・・・私の部屋・・・・・・?」
不思議に思いながらも素直に中に入る。

ガタンッ

「っ!? お義母様!!?」
(鍵をかけられた!?)
驚いて扉を叩く。押しても引いても当然ビクとも開かない。
「お前のような娘がいたら私が恥をかくんだよ。王子様方が帰られるまでここにいなさい。」
「え!? 待って下さい お義母様!!」
どんなにリネが叩いても継母は聞きもせず階段を降りていってしまった。

「そん・・・な・・・・・・遠くからでもいいからもう1度あの方の姿を見たかったのに・・・・・・」
最後に彼の姿を心に焼きつけたい。
望みはただそれだけなのに。
それさえも許されないの・・・?
「王子・・・・・・」



継母に案内されて王子一行は3人の義姉達が待つ部屋に通された。
「これが私の娘達ですわ。」
もちろん1目見ただけで彼女たちが探している「彼女」ではないとわかった。
けれど疲れていたのでとりあえず継母に促されるままに椅子に腰掛ける。
横で彼女が娘たちの事をしきりに褒めていたが彼の耳には届かなかった。

やっぱり諦めるしかないのか・・・

女性のいる家全てをまわって確かめているにもかかわらず一向に見つからない。
そして彼女の言った言葉。
―――月の魔法が見せた夢。
だから彼女は人間じゃないとまで思った。
けれど信じたい。
あれは決して夢ではないと。
彼女に触れた時の温かさも幻だとは思いたくない。

姫、どこにいるんだ―――・・・



窓から見えるお城。ずっと憧れだった場所。
ベッドの上に座ってボーっと眺める。

毎日眺めていつか行ってみたいとずっと願っていた。
その願いは叶ったけれどもっと贅沢な夢を見てしまった。
王子様とずっと一緒にいたいなんて。

チチチ・・・
窓枠の上に小鳥達が集まってくる。
リネによくなついていて彼女の大切な友達だ。
「なぐさめてくれるの? ・・・ありがとう。そうね、私にはあなた達がいるものね。」
チチ・・・
1羽が部屋の中に入ってきてオルゴールの上に乗る。
「歌えって?」
彼女がオルゴールに手を伸ばすとその鳥は今度は彼女の肩に移った。

開けて流れ出した音色に乗って彼女は歌いだす。
外に漏れた歌声に惹かれて小鳥がまた何羽かやって来た。
小鳥達に聞かせるように彼女はさらに歌いつづける。



「歌が聞こえる・・・」
微かだが聞こえる聞き覚えのある歌。
そう思った途端立ち上がって周りの制止も聞かず声の聞こえる方に駆け出した。



バン!
「やっと見つけた・・・」
息を切らしながら嬉しそうに王子は彼女を見る。
「!!」
どうしてここに彼がいるのか不思議だというような様子の彼女に彼は微笑んで手を差し出した。
「一緒に行こう。」
けれどリネは手を出そうとしない。
「・・・どうして私が貴方のような方と一緒に行かなければならないのですか?」
「何故かって?」
知らないふりの彼女に王子は穏やかに笑い返す。
「貴女が私の探している姫だからだよ。」
「・・・私のどこを見たら姫に見えるのですか?」
どこから見てもみすぼらしい姿を見れば確かに「姫」には見えない。
けれど。
王子には姿なんて関係ないことだった。
「でも貴女には変わりないでしょう? 言ったじゃないですか「どんな姿でも見つけ出す」って。」
要するに姿なんて関係ないって言ってるんだから。
彼女であれば他の事はどうでもいい。
「聞いてなかったんですか?」


「〜〜〜どうして見つけちゃうんですかぁ・・・・・・」
ぽろぽろと涙が瞳から溢れてくる。
それを拭いてあげて王子は彼女を優しく抱きしめた。
「好きだから。そう簡単に諦められるほどの恋じゃないからね。」
これは幻じゃない。
確かにこの感触はあの時の彼女と同じだ。

「はい、これも付けて。」
オルゴールの宝石箱から取り出したイヤリングを彼女の耳にはめる。
「・・・来てくれるよね?」
「―――はい。」
今度は素直に返事を返して彼の手をとった。




終わり。



<コメント>
やっと終わった・・・長かった・・・・・・あれ?
最初に書いた話となんか違ってるんですが。・・・何故?
けっきょく謎残しちゃった・・・まぁそれは後日談に書くんですが。
あと王子の名前「ジル」ってちゃんとあるんですが。
そこのエピソードすっ飛ばしたんで出ませんでした。(王子の性格変えるために書けなかったんですぅ・・・)

実は後日談がオマケにあります。↓

オマケ→




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