GoldEyes その2
「ルーク殿、もう望みは貴殿だけなのだ。」 彼の屋敷にやって来た大臣の1人は懇願するような瞳で彼を見る。 「―――・・・要するに彼女を私がオトせばいいわけですか。」 夜遅くに急な来訪だから何事かと思えば・・・・・・ なにぶん急だったのでラフな部屋着のままで応接室に出てきたルークと呼ばれた銀髪の男性は少々呆れて言った。 「でも彼女を手に入れたいという男性は山ほどいるのに彼女を好きでもない私がこういうのを任されていいんでしょうか。」 それでも彼女が今まで求婚されたりしなかったのは王子のガードが固すぎるから。 それがないなら彼女の所には毎日男達がやってくるだろう。 「・・・王子を納得させるような人物というのは貴殿の他にはいないのだ。」 「はあ・・・」 容姿、剣の腕、エトセトラ・・・ 確かにすべてが群を抜いている彼はまさに完璧。 彼以上に適した人間はいないだろう。 「・・・駄目かね?」 彼らにとってはこれが最後の望みなのだ。 「別に構いませんよ。」 意外とあっさりルークは承諾した。 「今のところ私には恋人も好きな女性もいませんからね。・・・何より面白そうだ。」 彼女が王子がそこまで寵愛している女性ね・・・ フッと意地悪げに微笑む。 「・・・まあ楽しませていただきますよ。」 コンコンッ ライルがいつものように執務室で仕事をしているところへ、突然扉を叩かれる音がした。 「・・・?」 今の時間に呼ばれずに人がやって来るのは珍しい。 アイラが開けに行くと、そこには銀の髪の男性が立っていた。 「お前は確か・・・・・・」 ライルには覚えのある顔だった。 要するにかなり高位で実力もある有能な人物。そうでなければ覚える気もない。 「はい、カイザール家現当主、ルーク=アルヴァン=カイザールです。」 自己紹介をし、礼をとる。 「で? 何の用だ? 私は呼んだ覚えはないが。」 中に入れて用件を尋ねた。 わざわざ来るのだからよほど重要な用だろう。 「実は本日は王子にお願いがあって参上致しました。」 「お願い?」 ライルが怪訝な目をしてルークを見る。 「アイラをしばしの間お借りしたいのです。」 ピキッ 今の一言でライルの顔が引きつった。でも珍しく怒鳴ったりはしない。 「・・・どういう理由で?」 「デートするためですが。」 何のためらいもなくあっさりと言う。 ガタンッ 「そんな理由で誰が許すかっ!!」 やはり我慢しきれずぶち切れてライルはイスを倒すほどの勢いで立ち上がった。 「・・・・・・ルーク、そういう事はまず私の了承を得てから言うものじゃないの?」 呆れた声でルークの隣にいたアイラが言う。 「ん? だってどうせアイラは王子がいいと言えば行くし、駄目と言ったら絶対に行かないだろう? だったら聞く必要もないなと思って。」 「・・・それは確かに。」 当たっているので納得せざるを得ない。 一方ライルは状況がよく飲み込めずにいた。何故か2人は妙に仲が良くて、男の方は彼女のことをよく理解している。 それにこんな彼女の態度を見るのは初めてだった。 たとえどんな人に話しかけられても同じ態度をとっていた彼女が、こんなにくだけた態度で話す相手がいたなんて今まで知りもしなかった。 「・・・アイラ、お前ら一体どういう関係なんだ? いつも俺の傍にいるお前がどうしてそこまで親しくなれる?」 彼女が特定の人物と呼び捨てで呼び合うのも初めて見た。 そう呼べるのは自分だけだと思っていたから。 「変な事おっしゃいますね、王子も。アイラも四六時中あなたといるわけではないでしょう? 独りで城内を歩いていることだってありますよ。」 「彼とはよく剣の手合わせとかしてるんです。お互い本気で戦える唯一の相手ですから。」 ね? と言ってルークの方に微笑みかける。 城内に彼ら2人に敵う者はいない。 大臣達が彼女に強く出れないのはそういう理由もあるのである。 「・・・ところで王子、デートの件は?」 「うっ・・・・・・」 本当は行かせたくない。片時も離れたくないのが本心だ。 ずっと好きだったから。 隣でいっしょに成長していった彼女。いっしょだけど違う、自分は男で彼女は女だと意識したのは随分前だった。 本当に好きだから。 結婚を反対しているのも自分がしないのも全部。彼女がいるからなのに。 けれど、あそこまで仲良いのを見せつけられてダメと言うのも彼女を縛りつけてるみたいで嫌だ。 当たり前だが気持ちは伝えていないし彼女は彼女で自分の「物」じゃないから。 心の葛藤が続き、しばらく間があく。 「・・・ライル、様・・・・・・?」 「―――わかった。行ってこいよ。」 「えっ?」 きっと言うはずがないと思っていた言葉を彼の口から聞いて、アイラは驚いた様子で彼を見た。 「おや、ではお言葉に甘えて。すぐ返しますから安心して下さい。」 返事を聞くや否や、ルークは問答無用で彼女を部屋から連れ出した。 城内にある庭園。ここは城内にいる恋人達が語らう場所。そこに二人の姿もあった。 違和感なく2人も雰囲気に十分溶け込んでいる。 中央にある噴水まで来たところで、アイラが立ち止まって口を開いた。 「・・・ところで何か話があったんじゃないの?」 「どうして?」 ルークも立ち止まる。 噴水の水しぶきが太陽の光を反射してキラキラと光った。 「だってあなたが本気で私を好きになるなんて絶対にありえないもの。もし本当にそうだったら熱があるのね、きっと。 ・・・二人きりで話したい事でもあるんでしょう?」 確信のある瞳で見られ、ルークは苦笑いする。 「あいかわらず察しがいいね。そう、確かに二人を引き離すように頼まれたよ。」 隠すこともせずあっさり言ってのける。しかしアイラも驚いた様子はない。 「大臣の方達ね・・・どうやら本気みたい。でも相手が悪いわよ、よりによってあなたなんて。」 お互い1番可能性が低い人間じゃない。そうアイラは思う。 それどころか絶対にあり得ない相手だ。 「そうでもないさ。私だから可能なんだよ。アイラも協力してくれるだろ?」 ルークの表情は君が断るはずがない、そう言っていた。 そしてそれは正しいのだ。 「・・・そうね、私もそろそろ王子離れしなくちゃいけないものね。」 理解してはいる。 いつまでも一緒にはいられない事。「約束」とはいえもう子供の頃とは違うのだから。 「そういえば大臣達のもう一つの仕掛けももうすぐだと思うよ。」 「?」
<コメント>
今回ちょっと短め。
なんとファイルサイズ半分です。サイズって一体どこで決まるのだろう・・・
そしてまだ続いてマス。