Gold Eyes その3




「ライル様v お久しぶりですvv」
突然執務室にやって来た少女はライルの姿を見るとにっこり微笑んだ。
「!!?」
突然の訪問客にライルも驚きを隠せない。
「ク、クルト姫!? どうしてまた急に?」
「お会いしたかったですーv」
ライルの質問には答えずに思いきり彼に抱きつく。
彼女は隣国の姫君で昔からずっとライルのことが好きだという姫である。
ふわふわのウェーブヘアーがかわいくて、「姫君」のイメージをそのまま形にしたような少女だ。
「・・・あいかわらず騒がしい方ですね。」

ピキッ

「・・・あなたもあいかわらず嫌味な女ですわね。」
2人の間に見えない火花が散る。
何故か昔からこの2人は気が合わない。
「あ、あの・・・姫? 今日は一体どんな用でこちらに?」
これ以上険悪なムードになってはまずいとライルが間に止めに入った。
「あら、聞いてらっしゃらないんですか? 私達の結婚が決まったんですよv」
「えっ!?」
(ああ・・・もう一つの仕掛けってこの事・・・・・・)
とうとう強引に結婚させようとし始めたか。
しかし誰より政治や外交に精通している彼に気づかれずに話を進められた所は賞賛に値する。
そんな大臣達の手のまわしぶりにアイラは半ば感心してしまっていた。
「結婚なんて聞いてませんよ!? アイラ、お前は?」
「いえ、全く。でも別に驚くことではないですわ。いずれこうなることは解っていましたでしょう?」
あいかわらずの的確で冷静な言葉。こういわれると納得するしかない。
けれど好きな人にこんな表情も変えずに言われるとけっこう辛いものがある。
「・・・まあ、そうなんだけどさ・・・・・・うん・・・」
「―――あなたはそれでいいんですの? 私のこと嫌いなんでしょう?」
ライルに抱きついたままアイラの瞳を見てクルトが言った。
「別に・・・嫌いなわけではありません。ただそんなに落ち着きがないのに王妃が務まるのかが心配なだけです。」
「・・・それってすっごく余計なお世話ですわ。」
少々ひきつりながらも気にしていたのかおとなしめに答える。
「くすっ、そうですね。・・・と、お二人でお話することもおありでしょうから私はしばらく出かけてきますね。」
「アイラ?」
そんな風に言うのは初めてだった。
「ライル様、心配なさらなくてもすぐに帰りますわ。」
やっぱり彼女には見抜かれているようだ。
「・・・すぐに帰ってくるなら・・・・・・」
「はい。」
にっこり笑って言うと、彼女は部屋から出て行った。



平気なわけない。一時も早くあの場所から逃げ出したくてあんなことを言った。
あれ以上平常心を保つ自信がなかったから。
2人を見ているだけで胸が締めつけられるように痛くて息ができなかった。
「・・・苦しすぎるよ・・・・・・」
思わず弱音が出る。
傍にいるためには表情に出してはいけない。この気持ちに気づかれたら全てが終わり、もう傍にはいられない。
でもこれからもあんな風に2人を見ていく自信もない。
どちらにしても離れなければならない時が近づいているのだろうか。

「アイラ・・・?」
不意に名前を呼ばれた。
「・・・ルーク・・・・・・」
振り向いた彼女の表情はいつもの彼女らしくなく切なげで。それは今にも消えてしまいそうなくらい儚げだ。
「!」
ルークは彼女を見て一瞬ぎょっとなったが、何も言わず彼女の腕を引っ張って引き寄せた。
「? ルーク?」
「・・・ここに来るまで誰にも会わなかったか?」
「・・・? ええ。」
それと抱き寄せられるのとどういう関係があるのかいまいち理解できずに困惑する。
「何があったんだ? 瞳が金色になるほど気が高ぶるなんて・・・」
「え?」
「私と戦いでもしない限りこんなことはなかったはず。・・・・・・何かあったのか?」
ルークはめったに感情を表に出さない彼女がそこまで動揺している事に驚いたが、それに一番驚いているのは彼女自身だった。
「・・・私、そんなにショックだったの・・・?」
2人が結婚することに? それとももう離れなければならない事に? それともその両方?
そう思うと余計に苦しくなる。そんな彼女をさっきより強く抱きしめた。
「瞳の色が戻るまでこうしておくから。安心しろ。」
「・・・・・・ありがとう。」
唯一自分の秘密を知っているヒト。なんだか安心できる。
あったかいな・・・
大きくて広い腕の中。自分には絶対あり得ない。
「・・・こんなトコ誰かに見られたら誤解されるかな?」
「むしろ好都合だ。私の目的を忘れたのか?」
「・・・そうだったわね。」
くすっと笑ってアイラは彼の胸に頭を預けた。
ルークも普段は見せない優しい瞳で彼女を見ながら彼女の銀の髪を手ですく。

・・・安心する・・・・・・


この甘い雰囲気に入るに入れず、角に隠れて2人の様子を見ている人物がいた。
あまりに彼女が遅いので迎えに来たライルだ。
姫には何とか誤魔化して彼女のために用意された部屋に戻ってもらった。
そこまでして迎えに来たのに。目に入ったのは1番見たくなかった光景で。
会話の内容は聞こえないが2人を見ているだけでやりきれない気分になった。
「・・・なんでオレがこんな気持ちにならなきゃいけないんだ・・・・・・」
アイラに他の男が触れるだけでもイライラする。こんな自分は醜くて大嫌いだ。
「・・・くそっ・・・・・・」
怒りをぶつける所もなく、ライルは気持ちを何とか抑えつけてくるりと背を向けその場から離れた。



「・・・ただ今戻りまし・・・・・・」
扉を開けた途端に感じたぎすぎすした雰囲気に、アイラは思わず引く。
「ラ、ライル様、なんか不機嫌ですね・・・」
「・・・別に。それより随分遅かったな。」
睨むような目つきで彼女を見た。そこで怒っている理由とかなり怒っていることを知る。
「あ、すみません。ルークと偶然会ったのでしばらく話をしていましたから・・・」
隠すかと思いきや以外に彼女は正直に話した。
ライルとしては隠されるのも嫌だがこう正直に言われるのも自分が男として見られていないようで複雑な気分になる。
「・・・そ。」
一言だけ言って視線を持っていた書類に戻した。
「―――――・・・?」
怒っているのは理解できるが何故まだ怒っているのかが理解できずアイラは困ってしまうのであった。


この後、城中が結婚の準備で慌しくなりアイラは独りでいることが多くなった。
独りでいるのはつまらない。そうなると彼女は必然的にある特定の人物の所に行くことになる。


「はっ!!」

ッキィ―――ン・・・

空高く太陽が輝く青空の下、ぶつかる二つの剣の音が響く。
城内の裏手にある何もないだだっ広いだけの芝生。他には誰もいない。
互角の剣を扱うのは同じ銀の髪を持つ者同士。その太刀筋は速過ぎて見えないほどである。

ッキィィ―――ン!

「アイラ! ここまでだ、やめろ!」
彼女の剣を正面で受け止めてルークが叫んだ。そこでやっと我に返ったアイラは力を緩める。
「え? ・・・あ、ごめん。」
「私を本気で殺す気か。瞳が金になってるぞ。」
「え!?」
驚いて思わず片目を塞ぐ。
「・・・つい本気になっちゃったみたい・・・・・・」
無意識のうちにイライラを募らせていたようだ。
ルークは彼女が押さえている逆の頬に手をかける。見つめられてアイラは押さえていた手を離して見つめ返した。
「・・・どうかしたの?」
「―――・・・私はこの瞳も好きなんだがな。」
太陽の輝きと同じ色。戦うために生まれた者の持つ証。
「私は持てなかったから・・・」
金の瞳は生まれながらの最強の戦士を意味する。
一族は滅び、今この瞳を持つのは彼女1人だけだ。
「ルーク・・・・・・」
しばらく2人は無言で見つめ合う。

「アーイーラー・・・」
ギクッ
低く怒りに満ちた声に2人ははっとする。
「これは王子殿下。こんな所までどんな御用で?」
動揺の色すら見せない平然とした様子でルークはライルの方を見た。
そしてまだ瞳の色が戻っていないアイラをすばやく自分の後ろに隠す。
「アイラを呼びに来たんだよ。・・・お前ら今何してた・・・・・・?」
爆発は我慢しているようだが顔はかなり引きつっている。
「剣の手合わせですが?」
「今ののどこが!? 見つめ合ってたじゃねーか!」
やっぱり我慢が足りない。
「くすっ、ヤキモチですか。」
すごい剣幕で怒鳴るライルにからかうような感じで言葉を返す。
「! そんなんじゃ・・・・・・」
「安心してください。目に入ったゴミを取ってあげただけです。王子が心配なさるようなことではないですよ。」
余裕の笑み。その分自分が焦っていることに気づかされる。
「―――っ!! アイラ! 戻るぞ!」
「あ、はい。あ・・・えっと、あの・・・先に行ってて下さいませんか? すぐに追いつきますから。」
まだ瞳の色が戻っていないことを思い出して彼の後ろに隠れたままで言う。
しかしそんな事情を知らないライルは思ってもみなかった返答に少し当惑していた。
「・・・わかった。すぐ来いよ。」
今すぐにでも問いただしたい気持ちを飲み込んで、ライルはきびすを返して去って行った。


前はどんなに他人と話していても中断してついて来ていたのに。
最近彼女の心が自分から離れていっているような気がする。
昔は当たり前のように解っていた彼女の気持ちも理解できなくなってきて不安が止まらない。
もうこれ以上・・・耐えられない。



<コメント>
えっと・・・どうなんでしょうね・・・・・・
ちゃんと関係がこじれてますか?(ちゃんとってアンタ・・・)
つかまだ続くんか、この話。
自分で何書いてんだかだんだんわかんなくなってきたんですけど。
今回のルーさんとアイラちゃんのラブラブも好きですが次の場面が1番好きです。
立場って重いね。(何言ってんだか)



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