Gold Eyes その4
アイラが部屋に戻った時、ライルの様子が少し変だった。 「? ラ・・・・・・」 ドンッ 突然腕を掴まれて壁に押さえ付けられる。 「痛っ・・・・・・ライ、ル・・・様・・・?」 強い力。力を入れてもびくともしない程。 じっと自分を見る瞳に気圧されて足がすくむ。 彼が全然知らないヒトみたいに感じた。 (怖い・・・・・・っ) けれどその瞳は何故かそらせない。 「・・・お前、あいつのことどう思ってる?」 「え・・・?」 (あいつ・・・?) 一瞬誰の事を言っているのかわからなかった。 「好きなのか? あいつのこと。」 「・・・ルーク、のことですか?」 ! その名前が彼女の口から出た途端、ライルの表情が硬くなる。彼女の腕を掴む力がいっそう強くなった。 「―――っ! ライル様、痛っ・・・・・・」 「・・・んで・・・・・・何でだよっ!」 ドン! 全ての怒りをぶつけるように思いきりこぶしを壁に叩きつける。 そしてそのままアイラの肩に頭をもたげた。 「・・・オレ、こんな自分が嫌だ・・・・・・お前があいつと親しげに話してるだけでやりきれない気持ちになって・・・・・・ でも縛り付けたくないから何も言わなかった。」 彼女の気持ちを尊重しようと思って。 「・・・だけどお前の口からあいつの名前が出てくるだけで頭に血がのぼって・・・・・・どうしようもないんだ・・・・・・」 この気持ちだけはどうしようもないんだ。 「オレはっ・・・・・・!」 「ライル様。」 そこまで出かかった言葉はアイラに制された。 「それ以上言ってはダメです。」 悲しげに微笑んで彼の瞳を見る。 それ以上言ってしまったらもう戻れなくなってしまう。取り返しがつかなくなってからでは遅い。 「・・・ライル様、私の1番はいつでもただ1人です。出会った時からそれはずっと変わっていません。 あの時から私の命は貴方と共にありますから。」 まるで告白のような言葉。 だけど少し違う。 「・・・彼に結婚してくれと言われてあなたに死ねと言われたら私はその場で胸を突きます。・・・・・・言いましたでしょう? 私はライル様に忠誠を誓っております、と。」 そう、これは忠誠。恋じゃない。 2人の間にそんな関係があってはならないから。 「――――・・・ごめん・・・」 言葉と共に手がほどかれる。 「・・・オレはこんなこと言う資格なんかないのに・・・・・・」 さっきのは決して言ってはならない言葉だった。 ズキン・・・ 胸の奥が痛い。 「・・・お前にはこんな感情を持ったらいけないんだよな・・・・・・」 オレは王位継承者・・・個人的な感情での行動は許されない。 「オレには姫がいる・・・」 まるで自分に言い聞かせるかのように。その一言一言が彼女の心を重くする。 本当は伝えたい。けれど思いがどんなに積っても言えない立場にいる自分。自分と彼とでは何もかもが違いすぎるから。 「・・・ごめんなさい・・・・・・」 今はもう、それ以上言えない。 「・・・何故あなたがここにいますの?」 「ライル様に話し相手をしてやれと言われたので。」 クルトの問いはあっさり受け流された。 「・・・あなたは王子の命令なら嫌な事でも平気でやるんですのね。」 「ええ。」 嫌味のつもりで言ったのだがアイラの表情は変わらない。 そうなるとこちらも意地になってしまうものだ。 「私と王子はもうすぐ結婚するのよ!? あなた王子が好きなんでしょう!? それでどうして平気な顔をしていられるのよ!」 アイラはきょとんとしていたが、クルトの顔を見て微笑んだ。 「・・・優しいんですね、姫君は。」 「な、何よ急に・・・・・・」 いつもと違う態度に戸惑いを感じずに入られない。 「だから。姫君だから私は諦めることができるんです。ずっと見てきたんですから。 姫君だけはライル様を本気で愛してくださっているから・・・」 「王子」ではなく「ライル」を愛してくれているから。 それがわかるから私は諦めることができる。 「・・・何よ、それ。あなたはこれからもずっと私たちを見ていかなくてはならないのよ!? あなたはそれでいいと思っているの?」 自分でも何を言っているのか解らなかった。これではまるで自分が2人の仲を応援しているようではないか。 けれど何故か言わなければならない気になってしまったのだ。 その問いにアイラは少し悲しげな表情を返した。 「・・・ライル様には内緒にしておいて下さい。でないときっと怒られちゃいますから。」 そう言って彼女の耳元で何かを囁く。 ! それにはクルトも驚きの色を隠せなかった。 「・・・怒るどころか止められますわよ、ソレ・・・」 「くすっ、そうですね。・・・でももう決めた事ですから。」 結婚式前日。 部屋にはライルとクルトのみ。アイラは用があるとかでここにはいない。 「・・・王子、本当に私でよろしいんですか?」 いつになく弱気な様子でクルトはライルを見上げる。 「―――姫?」 「私はライル様のことが好きですわ。でも貴方には他に想う女性がいらっしゃる・・・。私が気づかなかったと思います?」 「・・・・・・・・・」 何も言えない。 立場だとか身分差だとか言ってはいてもこの気持ちは変えられなかった。 気がつくと彼女の姿を追っていた。 ずっと彼女だけを見ていた。 ――――アイラだけを、ずっと・・・・・・ 黙っている彼を見て、クルトは「図星ですわね?」というように笑った。 「・・・彼女を私の所へ行かせたのは彼女をそばに置いておくのは辛いけど他の男の所には行かせたくなかったからでしょう?」 城中で流れていた噂と王子の機嫌の悪さ。 考えなくてもすぐにわかった。 「まあおかげで彼女の本心を聞けたわけですけど・・・・・・」 「え・・・?」 「こちらの話ですわ。・・・それよりお願いがありますの。私を今この場でフッて下さい。」 「えっ!?」 驚いて彼女を見る。 けれど冗談で言っている様子はない。 「このままでは私も前へ進めませんもの。・・・あなたがこれからも私を愛することができないのなら。 これが私の最後のワガママです。」 結婚しても2人とも幸せにはなれない。愛のない結婚なんて自分もしたくないから。 ライルは1度目を閉じて心を落ち着かせてから再び目を開ける。 「―――・・・姫のことは大切にしたいと思っています。でもそれでは姫に失礼でしたね。・・・私はアイラが好きです。 だからあなたを大切にはできても幸せにはしてあげられない・・・。」 すまなそうな表情で言う。でもこれが本心だ。 「すみません・・・」 彼女といると楽しいし友達でいるのには問題はない。けれど彼女にはそれ以上の感情が持てなかった。 自分の心を占めるのは今も昔もアイラだけだから。 「謝られるとこっちが惨めですわ。」 「あっ、すみません。」 「くすっ、まあ上出来ですわ。フッたということは私を一生愛して下さらないという事ですし。」 反応が面白かったので意地悪してみる。 「え!? あ、その・・・」 慌てて何か弁解しようとするが何も出てこない。 その慌てふためく様子を見てクルトが笑った。 「けっこうからかいがいのある方ですわね。・・・彼女の所に行って、そして幸せにして差し上げて。」 幸せに・・・? 「それは・・・・・・」 その言葉にためらいを感じているライルを見てクルトはにっこり笑った。 「身分も風習も関係ありませんわ。王子は彼女が好き、それだけで良いではありませんか。 周りを黙らせる方法なんて後から考えればいい事です。それよりも彼女を・・・後悔しないうちに早く。」 手遅れになる前に早く。 彼女を止められるのは王子だけだから。 「―――? はい。姫、ありがとう。」 少し最後の言葉と焦りの見える様子が気にかかりながらも、彼女に極上の笑みを残して彼は部屋を出た。 「・・・今のは反則ですわ・・・・・・」 1人残ったクルトがほてった顔をおさえながら呟く。 「―――・・・ずっと見てきたのは私も同じですもの。彼女にできて私にできないはずがないですわ。・・・悔しいですけどね。」 確かに彼のことは好き。 けれどもしも何かあった時、姫という身分を捨てて彼について行けるかどうかというと考えてしまう。 でも彼女ならどこまでもついて行くだろう。それが負けたと思う理由。 「これで幸せにならなかったら承知しませんわ。」 慌ただしく人々が行き交う廊下。 もちろん明日の式のための準備だ。 「アイラ様ですか? 確かさっきルーク様とご一緒に中庭の方に・・・行かれたような・・・・・・」 ちょっと彼の表情が恐かったので後半は控えめに言う。 「ありがとう」と一言残してライルは走り去った。
<コメント>
次で最後ですかね。もう少しお付き合い下さい。
ところでこの話のテーマって何だろう・・・
思う通りにだらだら書いてたので最初とだいぶ変わってるんですよねぇι