FOREST ANGEL その1
夏の初めの夜の森、この闇へと続く入り口に1人の身なりの良いドレス姿の女性がやって来た。 彼女の腕の中では生まれたばかりの赤ん坊が静かに寝息をたてている。 走ってきたせいで息を切らし肩で呼吸をしながら、彼女は前をその強い眼差しで見据えた。 「―――この森に住む3人の精霊、モネ・リネ・ロネ。私の前にその姿を現して。」 ポゥ・・・ 彼女の声に応えてちょうど彼女の視線の高さに赤、青、緑の光が現れ、それらは徐々に人の形を取っていく。 「おや、こんな時間にそして珍しいお客様だね。」 「何年ぶりかねぇ。」 「一体どうしたんだい?」 手乗りサイズの、光と同じ色の服を纏った老婆たちはそれぞれ好きなように口々に話しかけた。 けれど彼女は懐かしむ暇もないような切羽詰った表情で3人を見る。 「お願いします、この子を預かって下さい!」 「? 何を言ってるんだい、その子はお前とあの王との子だろう?」 「そうさ、あの男だってずっと望んでいたじゃないか。」 唐突に何を言い出すのかと老婆たちは不思議がる。 「でもダメなんです・・・」 ? 「―――第3妃の私が他の御二方を差し置いて子を授かればこの子はどんな辛い目に会うでしょう・・・」 そう言って強くまだ小さい我が子を抱きしめる。 「精霊族出身の私には御二人のような権力も持ちません。私にはこの子を守れるような力はありませんもの・・・・・・」 精霊でありながら人間と、しかも王という立場の者と恋に落ちて私はこの森を出て行った。 周りももちろんこの3人も反対したけれどこの恋は捨てられなくて。 本来こんな事を頼める立場じゃないのは十分承知している。 だけど他に頼める所がなかったから。 ポン 「―――わかった、この子は私たちが責任を持って育てるよ。」 緑の老婆が大きくなって彼女から赤ん坊を受け取る。 「・・・あ、ありがとうございます!」 「それからこれも持ってお行き。」 赤と青の老婆も大きくなって、彼女に星型のペンダントを渡した。 星が闇の中で淡い光を放っている。 「これ、は・・・?」 「それが輝きを放つ限りこの子は元気でいる。この子に会えない代わりだよ。」 赤の老婆がにっこり微笑んで言った。 ここに預けるという事はもう2度と会えないのと同じ事だ。 王の妃である立場の人間がそう簡単に城の外に出るわけにはいかない上、王にこの子の存在を知られてはならないのだから。 「こんな事まで・・・」 「良いんだよ。あの時は反対したけれどこれがお前自身で選んだ道なんだから。今は出来得る限り手伝ってあげたいんだよ。」 みんなの反対を押し切って森を出て行ったあの日。 森の外で待っていたあの男の所へ走っていった時の、彼女が今まで見せたことがなかった晴れやかな笑顔を見た時そう思った。 間違っていたのは自分たちの方だったと。 だから今はそれを教えてくれたこの娘の力になってあげたい。 「早くお戻り。あまり長い間姿が見えないと大騒ぎになってしまう。」 「・・・はい。ではその子を―――ルリアをどうかよろしくお願いします。」 一礼するとまた走って彼女は戻っていった。 「ロイア・・・あの子ますます綺麗になったねぇ・・・」 それから長い年月が経ち、すくすくと成長したルリアは母親似の美しい少女になっていた。 着ている服は質素で飾りも何もないけれど、それで彼女の美しさは隠されるものではなく、逆にさらにその美しさを際立たせているだけ だった。 「今日もいいお天気。」 空を見上げて朝日を全身に浴びる。雨の日も雨が冷たくて気持ちがいいから好きだけど、やっぱり晴れた空の青さの方が好きだ。 「さてと、水を汲みに行かなくちゃ。」 片手に小さな木の桶をぶら下げていつもの場所に出かける。 鳥のさえずり、朝露に濡れた葉、見慣れているはずなのにいつも全てが新鮮に感じられた。 私は今すごく幸せだと思う。 お婆様たちも森の他の精霊たちもとっても優しいし、この森の美しく幻想的な風景も気に入っている。 みんなに守られて何も不安がない生活。 ひょっとしたら私はとても贅沢な暮らしをしているのかもしれない。 そんなみんなのおかげで私は幸せでいられるのだから、周りが言うことはきっと正しいんだと思う。 だから私は森から出てはいけないというお婆様たちの忠告も1度も破ろうとはしなかった。 きっと何か理由があるはずだから。そう言うのはそれが私のためだって思うから。 でも、1つだけ気になること・・・ 森の外にいるという私の両親とどうして私はいっしょに居られなかったのかしら? 時期が来たら話すとお婆様たちは言うけれど。 ひょっとして私は要らない子だったのかなぁ・・・ だから森から出ちゃいけないのかもしれない。 そう思ったらすごく悲しかった。 だからもしいつか会えたら聞いてみたい。どうして私はお父様とお母様といっしょに居られなかったのか。 どうなのかな? ねぇ お母様・・・? 小川は森の中央を流れていて彼女がいつも水を汲みに行くのは森の真ん中の広く開けた場所。そこは朝でも森の木々に遮られず光が 差し込んでいる。 パシャ 「きゃっ 冷たーい。」 スカートをめくりあげて小川に足を入れてみたら意外に冷たくて。 朝にするには少し温度が低かったかもしれないと思ったけれどやめたくはなかった。 パシャ 水を蹴ってあがった水しぶきが太陽の光に反射してキラキラと輝き、それが綺麗だったので何度もやってみたくなった。
<コメント>
再びファイル消失事件(泣)
絶対新しいFD買ってやるんだからぁ!!(走り去る)