FOREST ANGEL その2




「・・・!?」
ずっと続いていた木々の風景が切れて急に視界が開けた。
急に入ってきた光に思わず目を細める。

けれどだんだん眩しさに目が慣れてきて、この広場のような場所を見渡していると小川で遊ぶ女性の姿が目に入った。
広いこの場所でたった1人、他には誰もおらず彼女はこちらには気づいた様子もない。

―――こんな所に人が・・・

けれどこの森に入って初めて会えた人間だ。
助かった、これで道が聞ける。



「すいません、お尋ねしたいことがあるのですが・・・」
ストン
彼女の近くまで来ると馬から降りる。
?
「はい?」
栗茶色の長い髪が揺れて彼女がこちらを振り向いた。
澄んだ濃い青の瞳。
その瞳で吸い込まれそうなくらいじっと見られておもわず固まってしまう。
「何か?」
「え、あ・・・じ、実は道に迷ってしまって・・・・・・」
頭が真っ白になって言おうとした言葉がなかなか出てこなくてあたふたとうわずった声で答えてしまった。
きっと今すっごく顔が赤くて変な顔をしている。
けれど彼女はふーんと興味もなさげに言って小川から上がった。

「その格好―――クノール国の方ですね。ここはもうタスティ国領内ですよ。」
「え・・・? 私は知らないうちにそんな所まで・・・・・・」
他国に行くためには通行証がいる。国越えはかなりの重罪だ。
迷ったからと言ってもこの森を抜けて国越えをしようと考える人間は実際にいるからきっと信じてもらえない。
「早くお戻りになった方がいいですわ。」
「・・・と言われても一体どっちに行けばいいのか・・・・・・」
「くすっ そうでしたね。ではわかる所までご案内いたしますわ。」


「歩いたらけっこう遠いんですよね・・・」
再び木ばかりの風景を並んで歩きながらルリアが呟いた。
「それなら――――」
まるで独り言のように言った後、

グイッ

「きゃっ・・・!」
軽々と持ち上げて、驚く彼女を馬に乗せる。
そして自分も後ろに乗って手綱を持った。
「これなら早く行けますよね。」
「そ、そうです、ね・・・・・・」
下を向いて小さく縮こまっている彼女を不思議そうに見る。
「別に落ちたりはしませんからそんなに固くならなくても・・・」
危ないと思うなら腕を掴んでても良いですよ、と言ったら彼女は首を横に振った。
「そうじゃないです・・・そんなんじゃ・・・・・・」
怖いとかそんなんじゃなくて。

ひょいって・・・あんなに軽々と抱き上げられてっ!

今までも何人か案内した事はあるけれどこんなことは初めてで、よく考えたら同じくらいの年の男の人っていうのも初めてで、
いろいろ考えてたら彼の顔を見れなくなってしまった。
今見たらきっと耳まで真っ赤になっちゃって変だと思われるっ。
どうしたらいいのかしら・・・

けれどそんな彼女の心がわかるはずもなく。
何からどう話しかけたら彼女がさっきのように笑ってくれるのかを彼は一生懸命考えていた。
「えっと・・・」

ビクッ

彼女の肩がまた固くなって、彼は次の言葉がなかなか切り出せない。
どうしたらいいだろう?
しばらく上を見上げてうーん・・・と唸っていたが特に何も出てこなかった。
そして最終的に出てきた言葉は。
「―――私はクレイ。貴女の名前も教えていただけませんか?」



―――ルリアはよくこういう事をしているの?

やっと打ち解けて2人はお互いのことを語り始める。
ルリアの顔が赤くなることもなくなった。

―――ええ。迷った人を導くのも私たちの役目だもの。

―――私、たち・・・?

―――そうよ。それはこの森に住む精霊たちみんなにある義務。人間だけじゃないわ。動物たちだって道に迷っていたら私たちは
      導いてあげるの。

この広い森の全てを知り尽くしているのはこの森に住む精霊たちだけだ。

―――・・・キミも精霊だったんだね。

―――気づかなかった?

彼女は笑って言うけれど、その瞳に微かな悲しみの色が混ざっていたのにクレイは気づく。
でもそれを言葉には出さなかった。
気づかないフリをするのも優しさだと思ったから。



「ここまで来ればもう大丈夫よね。」
そう言ってルリアはストンと馬から降りる。
すぐ目の前には人の手によって整備された定期馬車が通る道が見えていた。
クノールの首都へと続いている道だ。
「もう別れなければならないんだね・・・・・・」
クレイが残念そうに言う。
そしてルリアも同じような表情で彼を見る。
まだいっしょに居たい。その気持ちは2人とも同じだ。
「ごめんなさい、本当はあそこの門くらいまで送って行きたいんだけど・・・私は森から出ちゃいけないから・・・・・・」
「仕方ないよ。お婆様たちもルリアのためを思って言ったんだろうし。」
森の外の危険を彼女は知らない。
けれど知らない方がきっと幸せだろう。
「じゃあ・・・またいつか、もう1度会えたらいいね。」


だんだん遠く小さくなっていく彼の後ろ姿をルリアは寂しそうに見送っていたが、彼の姿が見えなくなると振っていた手を静かに下ろす。
「また、いつかか―――・・・」
次に会えるのは一体いつだろう。
たとえクレイが来たとしてもこの広い森の中で会える確率なんてきっと砂粒程度だ。
「―――もう帰ろ・・・」

フワッ

彼女の体が浮き上がり 地面から足が離れる。
半精霊の彼女は他の精霊たち程の力は持っていないが、空を飛ぶことや物を移動させることくらいはできた。
「早く帰らないと心配されちゃうわ。」
そう言ってスピードをあげる。



<コメント>
買宴uラブになるの早っ!!
そういえばこの2人が主人公なんだよねぇ・・・
↑後の展開を思い出しているらしい



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