FOREST ANGEL その3




「ただいま!」
「おや、ずいぶん遅かったねぇ。一体どこまで行ってたんだい?」
扉を勢いよく開けたルリアに紅茶を飲みながらのんびりと青の老婆が尋ねる。
今そこには青の老婆しかいなかった。
「あのね、迷った人がいて出口まで案内してたのっ。それでそのヒトといっぱい話したのっ!!」
ウキウキと上機嫌で嬉しそうに語る彼女に青の老婆の方が驚いてしまう。
「そのヒトすっごく素敵なヒトでねっ なんかお伽話の王子様みたいだったの。」
こういうところは普通の少女で青の老婆は優しく微笑む。
「―――名前は何だって?」
青の老婆が紅茶のカップを皿に戻しながら尋ねた。
「えっと、クレイだって。」
「・・・そりゃきっとクノール国の第3王子だね。」
「えー!? ホントに王子様だったの!!?」
思わず大きな声で叫んでしまう。
信じらんない! だいいち彼そんなこと一言も言ってなかったし、「クレイ」って呼んだ時も怒るどころか逆に喜んでいたのに。
本物の王子様だなんて全然気がつかなかった。

「また会えるといいなぁ・・・・・・」
もっといろいろ聞きたい。
「会えるさきっと。待っていればそう遠くないうちにね。」
「ホント!?」
ルリアの瞳が輝く。
「ああ、私の予言は当たるよ。」
「うん!」
そんな彼女の笑顔を見ながら 青の老婆はますます母親に似てきたようだと感じたのだった。




「どうしたものか・・・・・・」
玉座に座り深いため息をついているのは、このタスティ国王だった。彼の周りには彼の3人の妃たちもいる。
彼のため息の原因はただ1つ、
「このままでは世継ぎがいない・・・」
彼には3人の妃がいるにもかかわらずいまだに1人も子を授かっていないのだ。
「私の子といえばロイアが流産した子だけ、か―――・・・」
彼はルリアが流産したものだと信じていて彼女の存在を知らない。
彼の苦痛な表情を見てロイアの胸が傷む。

「養子を取ろうにも一体どこから連れてくれば良いものかわからぬし・・・」
「王、それはまだ早すぎると思いますわ。」
「そうです、それはまだお待ち下さい。」
養子の話に第1妃と第2妃が反論する。
しかしロイアは何も言わない、というより何も言えないのだ。
ルリアのことを言えば彼の悩みは解決するけれど、そんな親の勝手な理由で彼女を不幸にしたくない。

「―――わかった。養子の件はしばらく考える。」
もう1度深いため息をついて王は言った。



「あれから15年・・・・・・」
自室に戻ったロイアはベッドに座って胸元のペンダントを引き出した。
星は今も変わらず淡い光を放っている。
「あの子は元気で過ごしているかしら・・・」
あの日以来本当にただの1度も会いに行ったことはない。
毎日 こうして光を放って輝くペンダントを見ては安堵の息を漏らすだけ。

「私のことを恨んでいてもいい・・・けれど私が願うのは貴女の幸せだけだから・・・・・・」
そして今日も祈る。
「私のただ1人の愛しい娘、ルリア。貴女が今日も幸せでありますように―――・・・」
お婆様たち、どうかあの子を守って。
全ての厄災からあの子を、どうか・・・
「全ての精霊の加護を―――・・・」


バン!

「!?」
「今のはどういう事だ!?」
荒々しく扉を開け王が中に入ってくる。ロイアはあまりに急なことに驚いて立ち上がってしまった。
「王!? どうしてこちらに・・・」
「貴女の様子が変だったから様子を見に来たんだ。」

王は彼女の所までやって来ると彼女の両肩を強く掴んで再び座らせる。
「あの子は流産したのではないのか!?」
自分自身は膝をつき、彼女と同じ視線にして彼女の顔を覗き込む。
「それ、は・・・・・・」
「正直に話せ!」

ビクッ

知らない。怖い表情。
こんな彼は初めて。
でもあの子を・・・
あの子は―――・・・

「―――あ、すまない・・・つい感情的になって・・・・・・」
怯えた瞳でこちらを見ている彼女に気がついて、王は知らないうちに強くなっていた手の力を抜く。
「・・・しかしこれは重要な事、この事は貴女の為でもあるのだ。」
他の2人に比べるとどうしても劣ってしまう彼女の立場。
それは王の寵愛という言葉だけでは補いきれない。
でも世継ぎを産めば「正妃」になれる。
ルリアももう赤ん坊じゃない、心配する事はない。
「けど・・・私は―――・・・」
自分のために今幸せでいるあの子をむりやり連れ戻すなんてしたくない。
そんなことできないっ・・・!

「お願いだ・・・私には他に世継ぎがいない。貴女の気持ちはよく解るが私にはもう後がないのだ。」
後が―――・・・
確かに、これ以上は延ばせない。
このまま決まらなければ、王家の血を引く人々が自分が次期王に相応しいなどと言って名乗りあげてくるかもしれない。
それが発展すれば国内で争いが起こる。
それくらい考えなくてもわかる。
わかるけれどルリアは・・・
まっすぐに自分を見る彼の真剣な眼差し。その奥に見える焦燥と苦痛。
ロイアはそれらから目を逸らすように一度目を閉じた。

「―――・・・あの子は森にいます。お婆様や他の精霊たちが守ってくださっているはずです。」
ごめんなさい ルリア。
でもこの方の苦しそうな表情をこれ以上は見たくないの。
「三大精霊の所か・・・」
「はい・・・」
こくんと頷いてそのままうなだれる。
「わかった。すぐに迎えに行く。」

ごめんなさい―――・・・



<コメント>
後半主人公出番ナシ。
つーかこれからクレイはもっとナシ(爆)
両親ズで話1つできそうだ・・・



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