赤翼の天使 血の救世主 その2




それから5年の月日が経ち―――・・・


「父さん!」
年も17になり、立派な青年に成長したユイナは父親が帰ってくるなり荒々しい声をあげる。
エイリアのおかげで彼らは町の長となり、今では神殿付きの立派な豪邸に住んでいた。
「・・・どうした。」
昔の面影は全く無い厳しそうな面持ちをした父は煩そうに彼の方を向く。
「どうしたって・・・ また町を1つ壊滅させたというじゃないか! いくらなんでもやり過ぎだ!!」
小さかった町はエイリアの力を借り 周囲の町を滅ぼしては徐々に大きくなっていった。
今ではもう見渡す限りが彼らの領地で家族は贅沢三昧の日々を送っている。
ただ あいかわらずユイナだけは頑なに反対の意思を通していた。
「誰のためだと思っている。全てはお前のため、いつかお前がこれら全ての領地を治める事になるのだ。」
「僕はそんなものにはなりたくない!!」
僕はそんな弱者を虐げて生きていくような人間にはなりたくない。
昔の父さんのような優しい人間になりたいんだ。
「―――我儘な奴だ。・・・まぁいい、お前もいずれわかる時が来る。」
「そんなのっ・・・ わかりたくもないよ!」
けれどそれ以上はユイナがどんなに訴えても聞き入れようとしなかった。



「どうして・・・」
騒がしい街の中を独り歩きながらユイナは呟く。
領地を大きくする事しか考えなくなった父、苦しんでいる人間が居るのにもかかわらず贅沢な生活を続け遊び歩く母や姉。
昔のような温かい家庭はどこにも無い。町も人も欲に飲まれて変わってしまった。
そして―――
自分も その中に居る・・・

「ユイナ!」
「・・・ジュリア。」
彼と年は同じくらいの、育ちの良さそうな美しい女性が手を振りながらやって来る。
「どうしたの? 暗い顔しちゃって。」
心配そうに覗き込んでくる彼女の顔を見ながら彼は首を振った。
「何でも無い。・・・ただ 昔の方が良かったなって思ってただけだよ。」
それを聞いて彼女は心底変だというような顔をする。
「変わった事言うのね。今や貴方はこの都市と広い領地の次期領主。こんな恵まれた地位にあって昔の方が良いなんて貴方変よ。」
確かに と彼は自嘲気味に笑う。
「恵まれてるのはわかってる。これが贅沢だから言える願いだって事も・・・」
人々が望む全てを僕は手に入れられる。
彼女――― 幼馴染みで器量良しのジュリア、昔から憧れていた。
彼女と僕は今 婚約している。
「だけど・・・ 無理に領地を広げようとしなければ兄さん達は死ななかったんだ・・・」
上の兄さんも下の兄さんも領地争いの中で死んでしまった。残ったのは僕と姉さんだけ。
だから父さんは余計僕に固執して無理にでも継がせようとしている。
僕は家族で平和にさえ過ごしていられれば良かったのに。
「あら、そうじゃなくちゃ貴方は次期領主にはなれなかったのよ?」
「! ――― そう、だね・・・」
平気でそんな事を言う彼女にたまにぞっとする。
彼女も変わってしまった。

「あ、ねぇ 天使様はお元気?」
「エイリア? 最近会ってないけど元気なんじゃないかな。」
「なぁに ソレ。」
さして興味も無さそうな彼の返事に彼女は呆れる。
仮にもこの地の崇拝の対象にそんな態度は無いだろう と。
「仕方ないじゃないか。僕は 未だに彼女が怖いんだ・・・」
まだというより今の方が怖いといった方が正しいかもしれない。
何よりも彼女は初めて会ったあの時から全く変わっていないのだ。
まるで彼女だけ時が止まってしまっているかのように・・・
当時同じ年くらいだった姉と比べてみてもそれは歴然としている。
それにジュリアが笑う。そして誰もが同じ答えを返すのだ。
"天使だから当たり前だ"と。
それが変だと誰も言わない、誰も気が付かない。
改めて考えると とても恐ろしい事だった。



―――非常に栄え、巨大な都市となった小さな町。
けれどどんなものにも栄えた後には滅びが待っている。
そしてその日はついに 彼らの元へとやって来たのだ。



<コメント>
区切りが今回短いなぁ・・・
ラブラブはこの話では全くないです。
何かの反動でしょうか?



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