赤翼の天使 血の救世主 その3




ドン!!

大きな爆音と共に町の中心に巨大な光の柱が立つ。
そして次に砂埃を含んだ強い風と真っ直ぐに立っていられない程の地響きが襲ってきた。
「!!?」
ちょうど町外れにいたユイナは音の方角を見てギョッとする。
「まさか・・・」
町の中心、神殿がある方向・・・ すなわち自分の家がある所だ。
ユイナは急いでそちらに向かって走り出した。
とても 嫌な予感がする。



自分の屋敷の周りには多くの人が集まっていた。
彼らはユイナの姿を見つけると道を開け、それぞれが口々に状況を説明し始める。
その1つ1つをきちんと聞きながら 彼は爆発の中心が神殿の1番奥、エイリアが居る場所だという事を知った。
急に彼女が心配になったユイナは 周りがやめるように説得するのを振り切って中に入っていった。


「エイリア!」
石造りの冷たい廊下、見上げると細かい幾何学模様の色鮮やかな絵、両端には太い柱が並ぶ。
その中を彼の声が反響して奥の方まで流れていった。
ここは誰も居ないようでとても静かだ。

―――変だ。

いつもはエイリアの世話係や巫女達がたくさん歩き回っている。
それに外はあれだけ大騒ぎになっているのに、ここは気味が悪いほどの静寂に包まれていた。
話し声も足音も、何も無い。まるで異空間に居るようだ。
走る足は休めないまま、けれどこれ以上進んではいけないような気分になる。
胸を締めつけるような感覚・・・エイリアに会う時と同じ―――・・・

―――重い・・・

どうしてだろう いつもより苦しい、まともに息ができない程だ。


そのまま真っ直ぐに進んでいけば、突き当たりに白く眩しい空間の入口が見えてくる。
身長の何倍もある四角い光の向こう側は眩しすぎて見えなかった。
ユイナの額から走ったからではない汗が流れ落ちる。
彼の意識はもう限界にきていた。

「エイ―――・・・っ!!?」
入った瞬間 今まで走っていたユイナの足が止まる。
みんなが彼女に祈りを捧げる場所、"祈りの間"はすっかり変わり果てた姿になっていた。
天井は跡形もなく吹き飛び、柱は折れたり欠けたり、床は瓦礫だらけだ。

ビクッ

自分のすぐ足元、何か触れたと思ったのは瓦礫の下から覗く白い腕。
ユイナは思わず後ずさる。
「な―――・・・っ!?」

「―――ユイ・・・」
「!」
その声に顔を上げる。
今のはエイリアだけが呼ぶ僕の愛称。
「来ると思っていたわ。」
祭壇の上に立ち自分の方を見ているのはあの時から変わらない 輝くほど美しい女性。
けれどその背中にあるのは人にあるはずのないもの―――・・・
大きく、そして不気味な程に美しい真っ赤な翼。
「エイリア・・・ その姿は・・・・・・」
呆然と立ち尽くした様子で彼は呟く。
「"天使" ね・・・ 私も随分と綺麗な名前を付けられたこと。」
今まで見た事も無いような冷たい笑顔で彼女は笑った。
「・・・間違っているわけではないのだけれど。確かに私は天使だもの。」
「赤い翼の・・・天使?」
怪訝な目で自分を見るユイナを彼女は否定しない。
エイリアはやっと全てを思い出したのだ。
「そうね、見ての通り私は異端児。―――貴方にだけは全てを教えてあげましょうか。」

フワッ

彼女は空を飛んでユイナの目の前までやってくる。
近くで見れば見るほど彼女の翼は鮮やかな赤い色をしていた。
「私はね、悪魔の心を持った天使なの。」
彼女の笑顔にユイナは息を飲む。
今 初めて彼女の目を真っ直ぐ見た。威圧感で息が詰まりそうだ。
今まで彼女に感じていた恐怖はこの事を指していたのだろうか。
「天使でも心は悪魔、そして私は皮肉な事に天界で最強の力を持っていた。それで神達は私をどうする事もできなかったのよ。」
天界から追放しても私が堕天使となって天界に背いてもらっては困る、けれど悪魔の心を持つ私を天使と扱う事もできない。
彼らは臆病で愚かだわ と彼女は嘲笑う。
「けど 狡賢くはあったみたいね。私が命令違反をするように仕向けて、それを口実に記憶と力を封印して下界に追放したのよ。」
今思い出しても忌々しい。
誰も味方がいなかった天界での裁判、何も言い返せない自分が歯痒かった。
「じゃあどうして今頃思い出したりなんか・・・・・・」
5年も思い出さなかった記憶がどうして・・・
その問いを聞いた彼女は鋭い瞳で射抜くように彼を見る。
「―――悪いのは貴方達人間よ。」
「え・・・?」
「我を忘れて欲に溺れた醜い心が私を呼び醒ましてしまった。・・・あのままでいればこんな目に会わずに澄んだのにね。」
彼女は周りを見回す。
どうして 今まで気が付かなかったんだろう。
咽るほどの血の臭いがこの部屋には充満していた。

ハッ

そこで初めて彼は自分の両親もここに居るのを知る。
この時間はエイリアに祈りを捧げる時間じゃないか。
どうりで静かだったはずだ。祈りの時は神殿中の者がこの部屋に集まるのだから。
「父さんと母さんは!?」
「・・・あの人達は1番近くに居たからね。」
そう言った彼女の視線の先には 血だらけになって倒れている両親の姿。
エイリアは彼らにも冷たい笑いを向けた。
「もう事切れてるわ。―――知ってる? 私は破壊の天使なの。それが私に与えられた、司るものなのよ。」
目覚めた私は誰も止められない。それが私の存在意義だから。
ユイナは静かに彼女を見る。
怒りを抑えるような、恐怖ではない感情を持った表情で彼女を真っ直ぐに見たのだ。
「僕も殺すわけ・・・?」
「―――貴方は殺さない。1人だけ欲に溺れなかった貴方には悔しいからもっと辛い運命を背負わせてあげるわ。」
クスリと、彼の怒りは全く堪えていない様子でエイリアは答えた。



<コメント>
この話って区切るのが難しいねぇ(汗)
なんかPCに書き始めたらエイリア(覚醒後)の口調変わっちゃった。
まぁこっちの方が書きやすいんだけど・・・



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