One Letter その2




「ヨロシク」
まりあにしてみたら営業用にしか見えない笑顔で彼が挨拶すると、教室の女の子たちがはしゃいだ声をあげる。
この笑顔に最初騙されたかと思うと悔しくてしょうがない。
・・・しかも同じクラスだなんてっ。
この上なく不機嫌にムスッとして彼を見ていると不意に視線が合った。
彼は彼女に向けてもう1度にっこり笑う。
「―――まりあチャン そんなに俺と同じクラスで嬉しい?」
「誰がっ!!」
やっぱりこのヒト大嫌いだ!
まりあがぷいっとそっぽを向くと亮介は困ったような顔で周りを見る。
「おや。嫌われてしまったようだね。」
そのセリフに教室中が笑い出す。

さて、どうしたものかな〜・・・



放課後になるとまりあは急いで帰り支度を始める。
今日は来ているかもしれない。
そんな思いがあるからだ。


「ま・り・あ・チャン♪」
「何っ・・・」
不機嫌極まりない声で彼の方を見もせず答える。
手はバッグに詰めるために忙しく働く。
「校内の案内してよ。」
「どうして私がっ!?」
クラスメイトは他にもいっぱい居るでしょう!?
彼は持ち前の人当たりのいい性格のせいか、すでにクラスに馴染んでいた。
「だってまりあチャンは帰宅部だから。ついでに一緒に帰ろうか。」
「お断りしますっ!」
中身が詰まったバッグでガン!と力強く机を叩く。

「―――だって。」
簡単な伝言を伝えるような感じですぐ後ろにいた女子2人の方を振り返った。
「私たちが案内してあげよっか?」
クスクス笑って彼女達は答える。
「え ホント? じゃあ頼むよ。」
意外にあっさり諦めた。
「じゃあね まりあチャン。また明日♪」
まりあはそれに応えない。
けれど彼の方は無視されても気にしていない様子で、女の子と楽しそうに笑いながら教室を出て行った。
声が遠くなった頃、彼女は顔を上げて彼らが出て行ったドアの方を見る。
「・・・ほら やっぱり。誰でもいいんじゃない・・・・・・」
私じゃなくても―――・・・
呟いた時、胸の中で冷たい風が吹いたような気がした。
「―――って 早く帰らなきゃ!」
アイツと話してたせいで遅くなったじゃない!
けれどそれはすぐに消え、彼女は慌ててバッグを掴むと見ていたのとは反対のドアから出た。



「ねぇ 亮介くん。カノジョ、狙ってるの?」
案内していた女生徒の1人が突然聞いてきた。
「―――さぁね♪」
それは笑顔で上手くはぐらかす。けれど今度はもう1人が。
「彼女は諦めた方がイイよ 絶対。」
「・・・? どういう意味?」
何故か妙に深刻な表情で不思議に思う。
2人ともがそう言うなんて。彼女には何かあるのだろうか。
「入学したばっかの頃ね、彼女のコト狙ってた男って多かったんだよ〜。でもみんなダメだったらしいの。」
「まぁ大半は京香が追い払ったんだけどね。」
面白そうに2人は笑う。
けれどそれは亮介にもわかる事だ。彼女達が言うのはきっと"それ"じゃない。
「そうそう♪ でもね、それだけじゃないの。中には告白できたヤツもいたんだけど、まりあね、絶対カクジツ!と言われてた
会長までフッたんだよ。」
「あの後会長ってば灰になっちゃって。生徒会の仕事にまで影響するほどで有名になったんだよ。」
「本気だっただけにショックだったんだって。」

別にまだ本気なわけじゃないけど。なんかそれって・・・

「・・・俺じゃ絶対ムリって意味なワケかな?」
不本意だという様子で亮介は珍しく険しい表情で言った。
彼女たちは驚いて首を振る。
「あ、違う違う、そこで終わりじゃないのよ。その後で誰かが京香に彼女の断った言葉っていうのを聞いたらしいんだけど、
それが"私の心はもうここには無いのであげられません"なんだって。相手が誰でも同じ言葉を返すらしいの。付け加えて京
香が言うには例え自分が認めてもまりあは頑固だからそう簡単にはオチないよって。」
「ここ半年ですでに10人が振られてんだもん。本気になる前に止めた方がいいと思うよ。」
本気になる前に、か。
彼女たちはただ親切に言っただけだろう。
だけど自分はそこで止めるような性格ではない。
逆にオトしてみようと思った。本気になんてならない、そんな自信があった。
「―――やってみないとわからないね。」
不敵に笑って言った彼の言葉は2人をギョッとさせる。
今までそう言って何人が玉砕したか・・・ 彼もまたその犠牲者になるのか。
彼は気づいていない。
そこで諦めない時点で もう彼女に夢中になり始めているという事を・・・



「えーと・・・今日の欠席は―――・・・」
「何してんの?」

ボキッ

肩越しにその声が聞こえたと同時に書いていたシャーペンの芯が折れる。
何をしなくてもわかるその相手に、沸々と怒りが込み上げてきた。
「・・・見ればわかるでしょう!?」
「わかるけど 何?」
甘ったるい声で耳元で囁く。
けれど彼女にとっては全てが怒りの対象で、からかってるとしか思えない態度は彼女の感情を逆撫でさせるのに十分だった。
「日誌を書いてるのっ! 今日は何の用!?」
彼がこうして自分の所に来るのは毎日のコト、もうすでに慣れている。
「んー? 今度の日曜日デートしない?」
「イヤ。」
彼の申し出はコンマで却下された。日誌を書く手は休まない。
「他の人を誘えばいいでしょ?」
断るとわかっているのだから最初から言わなければいいのに。
そう思う彼女には彼の言葉の意味が全く伝わっていないようだ。
「・・・まりあちゃんがいいから誘ってるのにつれないね。」
『!!?』
まだ教室には残っている生徒も多い。
彼のセリフが聞こえた者は驚いた様子で2人の方を見た。
「どうして私が貴重な休みを貴方と過ごさなきゃいけないの?」
それでも彼女は応じない。
「まりあちゃん どうせ1日中家に居るんだからかまわないじゃん。せっかくの休みなのに外出ないと勿体無いよ?」
「! どうしてその事知ってるのよ!?」
そこで初めて彼の方を振り返った。亮介は嬉しそうににっこり笑う。
「お隣だから♪」
「そういう問題っ!?」
「私だって知ってるわよ。」
バッグと上着を持って彼女はまりあの所に来た。
「京香ちゃんvv 今日は部活無いの?」
途端 まりあの態度がころっと変わる。
「無いから一緒に帰りましょ。・・・いつもの事だもの、誰だってわかるわよ。」
まぁったく 変わんないんだから。
呆れというか仕方無いといった風に息をついてまりあの頭を軽く小突いた。
「早く帰ろ。・・・あ、亮介くんも一緒にどう?」
顔を上げて 少し驚いた表情の亮介を見る。
「京香ちゃん! この前といい どうして彼も!?」
ホントに嫌そうなまりあだが、京香は気を変える気はさらさら無い。
「どうせ帰る所は同じじゃない。まりあこそ何がそんなに嫌なの?」
「何がって・・・」
何故かそこで言葉に詰まる。
からかわれてるってわかってるからイライラするし、何も知らないくせにズカズカと私の心に入ってくるのも嫌い。
そういえば良いのにそれは言葉にならない。
「〜〜〜何でもない! 帰るっ!!」
「良かったね。一緒でいいって。」
面食らっている亮介に笑って京香が言った。



<コメント>
めっちゃくちゃ軽いオトコとして書いてるつもりの亮介。
彼は女好き(断定)
前のガッコにも付きあってた子はたくさんいたんじゃないかな。
書く所なくて書いてないけど実は彼 帰国子女。
だから中途半端な時期に1人暮らしでここに来たのさ。
両親はまだ外国に居るのだ。(まりあと同じだね)
こういうオトコは書くのはすっげ楽しいんだけど。
こんなんに限って本気の女にはとことん弱いと思う。って思って書いてた。



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