One Letter その4




「・・・なんか乗せられた気がする。」
もちろん彼に買ってもらったソフトクリームを食べながら憮然として呟く。
日曜に遊園地に行くのだってよく考えたら彼がいつも誘っているものだったし。
泣いていて冷静さを欠いていたとはいえ、どうしてOKしちゃったのかしら。

「まあまあ♪ 次は何に乗る?」
「・・・アレ。」
さっきから絶叫が聞こえてくる目の前のでっかいジェットコースターを指差す。
見上げて亮介も少し顔を硬直させた。
「絶叫系がスキなの・・・?」
さっきからそういうのしか乗った覚えがないんだけど?
別に苦手でもないし嫌いなわけでもないから構わないのは構わないけれど。
彼女のイメージとのギャップがあるというか。
「好きだよ。よく乗ってたもん。」
彰と――― そう言いかけて止めた。
今まで乗ったのも全部、彰と乗ったものばかりだなんて言ったら機嫌悪くしちゃうよね。
代わりだとは思ってないけど そんな風に見てると思われちゃうかもしれないし。
通りがかったゴミ箱にソフトクリームに付いていた紙を投げ捨てた。



「最後は当然アレだよね。」
日も暮れかかってきた頃、亮介が自分から乗ろうと初めて言ったものは観覧車。
「デートの定番でしょ♪」
そう言ってにっこり笑う。
「誰がデートよっ。」
「周りから見れば誰でもそう思うよ♪」
言い返しながらも彼女の足は観覧車へと向かっている。
彼女が冷たく言うのは照れ隠しで、拒まないと亮介も確信していた。
「これから見下ろすと夕日がキレイだろうね〜。」
最大規模のソレを見上げて楽しそうに亮介が言った。
それを見てクスっとまりあが笑う。
「亮介君って子供みたい。」
「・・・やっと俺の前で笑ったね。」
嬉しそうにまりあを見た。
その表情にまりあは自分の胸の鼓動が高鳴るのを覚える。
「乗ろうか。」


遠くにキラキラと金色に反射する海が見える。その中に1隻の船が黒い粒のように浮いていた。
「キレイ・・・」
まりあが感嘆の息を漏らす。
2人の顔も空気もオレンジ色に染まっていた。このまま時を止めてしまったら、この美しい風景をずっと留めていられるのに。
「今日は楽しかった?」
「うん。ありがとう。」
視線を彼に移して素直に応える。
「おかげで気分も紛れた。・・・いつも日曜にね、京香ちゃんが家に来てくれるのは私が独りで沈んでるからなの。」
前に言われたとおり、日曜は何処にも行かないし何もしない。
こういう風に誘われてやっと外に出る。
「ホントに楽しかった。嫌な事も全部忘れて遊んだのはとっても久しぶりなの。」
「それは良かった。」
今までの拒絶した態度も突き放した物言いももう無い。
そろそろ伝えてもいい頃かな。

「―――ねぇ、まりあちゃんはもう気づいてると思うけど・・・」
「え?」
「俺の気持ち。」
「へっ!?」
夕日のせいではなく彼女の顔が赤く染まる。
「・・・わかりやすい応えをありがとう。」
今度はまりあが亮介に笑われた。
「だ、だってぇ〜〜・・・」
冗談かもと思う時もあったけど、何となく気づいてた。
からかい半分だからいまいち確信は持てなかったけれど、私もそこまで鈍いわけじゃない。
「どう? 付き合ってみない?」
立ち上がって彼女を覆うような形で屈む。
かなり揺れたけれど 彼女の頭の中はそれを気にするどころではなかった。
付き合って・・・
「・・・いい、のか な・・・・・・」
「まりあちゃんがイイって言うならね♪」
顔を上げると夕日に照らされた彼の顔が間近にあった。
けれどそれにダブって見えたのが―――・・・

「―――っ!!」
「? まりあちゃん?」
彼女の表情が変わって不思議そうに問いかける。
「っ やっぱりダメっ!」
驚いた。
切羽詰った顔で言われた言葉が"NO"のセリフだったとは。
「どうして・・・?」
亮介にはわからなかった。
当然まりあが自分と彼をダブらせたなんて気づいていない。
「彰が・・・私は彰を待ってなきゃ・・・」
もっと言葉を選んで言うべきだったけれど、それを考えられないほどまりあ自身も動揺していた。
突然見えた彼の姿が忘れかけていた思いを引き戻してしまったのだ。
「約束だもんっ・・・待っててって・・・だからずっと待ってなきゃ・・・・・・」
何度も繰り返し呟く言葉、それは見ている方が苦しくなるほど悲痛な呟きで。

「―――わかったよ。」
一言、静かな声で言った。
「帰ろう。」
海もすでに見えなくなっていて すぐそこに地面が迫っていた。



「・・・・・・」
ドアをそっと開けてみてもそこにいつもの笑顔は無い。
もう出かけた後のようだった。
「当たり前だよね・・・」
昨日もあの後はサヨナラ以外言わなかった。きっとあんな事言った私を怒ってる。
京香も今日は朝練で先に行ってしまっていた。
本当に独りだ。
「甘えてちゃダメだよ・・・」
決めたんだから。
彰が帰ってくるまでずっと待つってもう決めたの。



「まりあ〜 パン買いに行くでしょ?」
「あ、うん。待って!」
クラスメートに呼ばれて財布を手に取った。
後ろで楽しそうな笑い声がする。輪の中心は亮介だ。
あれから目も合わせていないし会話も全く交わしていない。
けれど元に戻っただけ、彼が来る前に戻っただけだ。
何も変わらない、前と変わった所なんてない。


「亮介君と最近話してないよね。何かあったの?」
クラスメートの子にしてみれば当然で何気ない質問だった。
けれど今のまりあにしてみればキツイ一言だ。
「もう、話す事はないよ・・・ だって嫌われたもん・・・」
「えっ!? あ、ゴメン!!」
いけない事を聞いたと後悔してみてももう遅い。
「いーよ、私が悪いんだもん・・・」
酷い事を言って傷つけたのは私だ。彼より彰を取ったのは、そう決めたのは私自身。
でも―――・・・
廊下の真ん中で涙が出てきてしまった。
クラスメートはは横でおろおろするしかない。
「どうして―――・・・」
どうしてこんなに胸が痛いんだろう。
彰を待つって決めたのに、どうしてそれがとっても悲しいの?
「わかんないよ・・・」
なんでこんなに泣きたいの?
彰 教えてよ・・・ どうして帰ってこないの・・・?
「まりあちゃん・・・・・・」



ガンッ!!

テニスラケットのグリップの底が机の上に叩きつけられる。
あまりの音に笑い声がぴたりと止まった。
「亮介君 ちょっと来てくんない?」
ラケットを取り上げて言ったのは京香だ。
その凄みのある声にみんな怯えた視線を向ける。亮介だけはわかっていたような目で見た。
「ああ、いいよ。」



<コメント>
強いデス 京香ちゃん。
つーか まりあはあんま性格良いと思わない・・・
ねぇ亮介はこの子の何処が好きなん?(お前がいうセリフか)
容姿がいい娘は得だね。・・・ってのは冗談で。
確かにまりあはモテるけど、本人気づいてないってゆーか自慢したりしないから
周りから嫌われたりしないし むしろ女の子も守ってあげたいという気持ちにさせるらしい。
・・・う〜〜 上手く区切れない・・・(汗)



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