Tear Spring

第10幕「貴女の帰るべき場所へ・・・」
(第23回〜第25回)




「結婚式を同時に?」
 数日経ってルディスとリアの2人は呼び出されて父王からそう告げられた。
「ルディスはともかくリアの場合はそう盛大に行えるものではないからね。」
 彼はリアを見てにっこり笑う。
 姫君が臣下の妻になる事、すなわちそれは身分的に王族ではなくなるという事だ。
 どこかの国の正妃となるわけではないので結婚式がそんなに公にされるはずも無い。 
「これが私の、父としての最大限の気持ちの表し方だと思って欲しい。」
「お父様・・・」
 嬉しくて思わず涙で潤んだ。
 認めてもらうだけで自分たちは充分だったのに。まさかここまでしてもらえるなんて。
 こんな幸せでいいのかしら。

 アレ・・・?

「・・・お兄様は誰と結婚するの?」

 コツン

 首を傾げて言ったら痛くはない程度に小突かれた。
「アホ。セレアに決まってるだろうが。」
「! あっ・・・」
 ルディスが呆れた顔でこちらを見ている。

 やだ どうして忘れてたのかしらっ。

 お兄様の恋人、セレア姫。そしてアクラムの姫君。
 私も昔から一緒によく遊ん―――・・・
「・・・・・・?」
「どうした?」
「・・・んーん、何でも。」
 慌てて首を振る。
 顔が思い出せないなんて言ったら怒られるわね。

「今回の式には様々な国を招待しているのだよ。」
 この上なく上機嫌で彼は言う。
 何故かお父様が1番はりきってるみたい。
「ただ残念なのはシーダー王が来れないという事だな。彼にはぜひとも来てもらいたかったのだが・・・」
 彼は心から残念そうに呟く。
 ロークワット王とシーダー国王は昔からの親友で彼が1番招待したかった相手だった。
 なんでも国内の重要な行事と重なってしまうそうだ。
「式には彼の代わりに息子のシウス王子が来るそうだよ。」

 ビクッ

 瞬間に体が大きく震えた。

 な、に・・・・・・?

 今の感覚。その名前を聞いた途端に何かを思い出しかけた。
 頭が、心がその何かを拒否しているような―――
 これは、何・・・?



 部屋に戻りながらリアは自分の左手を見つめる。

 アツイ・・・

 理由はわからない。
 だけどとても熱くて何故か心がとても切ない。
 変だわ。幸せなはずなのにどうしてこんなに悲しいのかしら・・・

 ―――リア・・・っ!

「えっ・・・?」
 その声で反射的に顔を上げたのと同時に後ろから大きな腕で包み込まれた。
「こんな所で何を立ち止まっているのですか?」
「リーク。」
 あいかわらず見た目は細いわりに鍛えた身体。
 彼に体重をかけるように見上げると外からの光で銀髪が輝いて見えた。

 さっきの声はリークのものだったのかしら?

 けれどリークは私を名前で呼ばない。
 知らないようでよく知っている気がする声。
 何故だろう・・・ リークが居るのに、こうして腕の中に居るのにとても不安な気になるの。
 彼のマントを手繰り寄せて自分を隠すように引っ張った。
「姫君? 何をなさって・・・」
「リークはここに居るわよね?」
 この温かさは偽物じゃないのよね?
 不安で堪らなくて、マントをぎゅっと握り締めて聞く。
「? ええ、私はちゃんと居ますよ。」
 リークはその問いに優しい言葉で返してくれた。
「そうよね、変な事聞いてゴメンね・・・」

 でもどうしてこんなに不安なの・・・?




「殿下・・・ あまり無理をなさらないで下さい。」
 眠るリアの傍らに座って離れないシウスにトリナが心配そうに声をかける。
「もうずっと寝てらっしゃらないのでしょう? 姫様が心配なのはよくわかりますけど、このままでは殿下の方が
 お倒れになってしまいますわ。」
 昼間は父王と共に政務をこなし、夜は付きっきりでリアを見守っている毎日。
 身体も精神ももう限界に来ているはずだ。
 けれど彼はうんとは言わなかった。
「大丈夫だよこれくらい。リアを失う苦しさに比べればこんなの たいした事ないさ。」
 そう言って笑って見せる。
 多少の寝不足なんてどうって事ないさ。
 目が覚めた時、ここに彼女が居なくなっている怖さよりもずっとマシだ。

「殿下は・・・ 姫様を愛してらっしゃるのですね。」
「―――そうだよ。他の誰よりも幸せにしてやりたい。」
 意外に隠したりせずにあっさりと答える。
「たとえこの想いが気づかれてないとしても 私はリアを大切にしたいと思ってる。」
 たとえ彼女が、リークを一生愛すると言ったとしても―――・・・

 殿下 素で言ってるのかしら・・・・・・

 ホントは寝不足であんまり何も考えてないのかもしれない。
 聞いてる方が恥ずかしくなってトリナは赤くなった頬を押さえた。


 ---------


「―――今夜が限界でございます。」
 誰もが最も恐れていた言葉・・・ それがとうとう医者の口から出る。
 トリナはその場に力なくへたり込み、ユキナは持っていた花瓶に挿す花束を落としてしまった。
 リアの手をたださっきより強く握ってシウスは医者に問う。
「・・・彼女はただ眠っているだけだろう?」
「そうです。姫君は全くの健康体、意識が夢に捕われているだけですな。」
 夢の中から戻ってこない。
 異常なのはそこだけだ。
「だったら何故今夜までだと・・・?」
 医者の診断に納得がいかない様子のシウスを見て、その老医者は表情を変えずに淡々と述べた。
「何も食べなければ餓死するのと同じです。」
 他に身体に栄養を取り込む術などない。
 さらに倒れた後の彼女は一滴の水さえも飲んでいないのだから。
「とにかく夜明けまでがギリギリの範囲だと思って下さい。」

「そんな・・・ 姫様っ・・・・・・」
 座り込んだまま立ち上がれず、トリナは顔を蒼白にして呟く。
 姫様を失うなんて考えられない。
 彼女を失ったら私は生きる支えを失ってしまう。

「・・・っリア! 目を覚ませ!!」
 彼女の身体に覆い被さるように手をついてシウスは叫ぶ。
 彼も必死だった。

 冗談じゃない。
 このまま何もできずにリアを失ってたまるかよ。

 けれど彼女は一向に意識を回復する素振りも見せなかった。
 目を閉じて、まるで人形のように静かに眠っている。
「ちくしょ・・・っ」
 けれど何もせずにじっとしている事はできない。
 だから諦めずにシウスは名前を呼び続けた。

 ―――リーク お前は彼女まで連れて行くつもりか!?
 やっぱり俺はお前には勝てないのか・・・っ!?

 声が嗄れて出なくなってもいい。疲れて倒れるくらい構わない。
 だから目覚めてくれ。
 俺はどうなっても良いから。他に何も贅沢は言わないから。
 彼女を連れて行くな リーク・・・!



「・・・リア。」
「―――! え? あっ・・・・・・」
 リークに小声で呼びかけられてリアはハッと我に返る。
 いけない、またボーっとしてたみたい。

 リークと腕を組んでゆっくり進んでいく道。
 床には真っ赤な絨毯、そして散りばめられた色とりどりの小さな花たち。
 天井は光が入るガラスのアーチ型で、前方の壁には大きなステンドグラスがはめ込まれている。
 自分は春らしい薄桃色の透かしレースがかけられたドレス、
 リークは彼の髪に合わせたような白生地に銀の縁取りと刺繍が入った服、そしてマント。
 人々の温かな祝福の視線と言葉の中で 2人は先に行ったルディスとセレアが待つ段の上に登った。

 まるで夢のような光景。ずっと夢見てた。
 1番好きな色のドレスを着て、1番好きな季節に、1番好きな人と結婚式を挙げる。
 今日 その夢が叶うの。
 これは決して夢なんかじゃ・・・
 ユ・・・メ・・・・・・?

 パンッ

「・・・・・・!?」
 何かが弾けるような嫌な音が頭の中で聞こえた。
 そしてその瞬間駆け抜けた様々なヴィジョン。

 さよならを告げる2人、
 ひび割れたブレスレット、
 知らずに流れた涙・・・
 薄桃色のドレスで挨拶の礼をとる私の姿、
 リークの部屋に置いてきたお気に入りの指輪。
 紅茶を飲みながら楽しそうに語らう人―――・・・(この人は誰?)

 私はその人を笑顔で迎え入れて・・・

「嫌・・・っ!」
 思わず目を閉じて耳を塞ぐ。
 思い出したくない! 心が痛くなるのっ これ以上思い出させないで!!

「―――リア!!」
「・・・・・・!?」
 ハッと 声がした方を振り返ってしまった。
 いつも私を呼ぶ声、優しくてでも今は必死に呼びかけているあの声。
 その自分の名前を呼んだ人物は、数え切れないほど居る招待客の中に居るはずなのにはっきりとわかった。
 短めの栗色の髪、深海の海の色をした瞳の王子。
 彼は手を差し伸べてくる。
「・・・戻ろう。」

 ―――モドル・・・? "何処"に?

 貴方は誰? どうして私の名前を呼ぶの?

 見ていると何故か胸が切なくなる。彼の事はわからないのにすごく懐かしい。
 そしてわからない事がひどく悲しい。

「リア みんなが待ってる。戻ろう。」
 彼はもう1度言った。
 その時彼が見せた寂しく切なげな表情。
 それが自分の記憶の奥にあった彼の顔と重なった。
 言葉が自然に口をついて出る。
「シウス―――っ!!」


 パキ―――ン

「え!!?」
 その途端周りの全てが石になった。
 人も壁も何もかもが灰色になり、景色が音を立てて崩れていく。

 そして 残ったのは自分と、リークだけだった。
 真っ白で、どこが終わりかわからない空間に2人は立っている。
 リークの衣装はいつのまにかいつもの服に変わっていた。
「・・・気づいたのですね。」
 嬉しそうなのか悲しそうなのかよくわからない笑顔でリークはリアの顔を見る。
 こくりとリアは頷いた。
「―――ええ。ここは、この世界は・・・私が創った、夢の世界なのね・・・・・・」
 リークが死んだ事を認めたくない自分が勝手に創りあげた偽りの現実。
 絶対にあり得ない 嘘の世界。
 ありはしないのに、これが本物だと信じ込んでしまっていた。
 もっと早く 気がつくべきだったのに。
「ごめんなさい・・・ 信じたくなかったの。私だけ残されるのが嫌だったのよ・・・」
 私 そんなに強くないもの。
 貴方の死をすぐに受け取られるほど物分りのいい性格していない。
 ぽろぽろと涙を流しながら言うリアを彼は強く抱きしめた。
 彼の身体はもう無いはずなのにやっぱり温かい。
 そして生まれる 離れたくないと思う気持ち。

 だって貴方はこんなに温かいのに・・・


「・・・ねぇ このまま一緒に行きたいって言ったらどうする?」
 このままずっとこうしていたい。
 一緒に行けばもう離れずに永遠に2人で居られる。
 本気でそう思った。
 だって夢だとわかっても貴方とはもう離れたくないもの。
 絶対不可能というわけじゃないはず。
 きゅっと強く彼の服を握る。

 お願い、否定しないで・・・

「―――いいですよ。」
 意外にあっさり、そしていつものリークなら言わないだろう答えが返ってきた。


 ---------


「簡単な事です。」
 そう言って 彼はリアから離れた。
「私のこの手を取って、共にあの扉を通り抜ければいい。貴女の悲しみ、苦しみ、全てを忘れて・・・」
 彼の姿の向こうには、大きくて重そうな感じのする扉が何時の間にか立っていた。
 あれが現実と天の世界を繋ぐ扉。
 リアはその扉を夢でも見ているような心地で眺める。
「リークの手を、取る だけで・・・」
 そうすればあのさっきの夢の続きが見られる。
 夢が本当にホンモノで永遠のものになる。

「―――ただし。」
 けれど さらに彼は続けてこう言った。
「貴女のその言葉が本心からならば、の話ですが。」
「!?」
 驚いて弾かれたようにリークの方を見る。
「わ・・・私は本気よ! 心からそう思ってるわ! なのにどうしてそんな事っ・・・」
 それじゃ私が本心から言っているのではないように聞こえるわ。
 そんなはずない。私は本当にリークと居たいのよ!?
「―――貴女は決して強くはない。普通の、守ってあげなくてはならない女の子です。」
 どんなに強く見せたって必死で背伸びしているのがわかる。
 無理をしていると気づく度に守ってあげたいと思った。
 出来れば私が、ずっと貴女をお守りしたかった。
「けれど・・・貴女は弱くもないでしょう?」
 私の死から逃げて待ってる者を置いて行くほど貴女は弱い方でしたか?
 リークが優しい瞳でリアを見る。けれどその表情はやはりどこか寂しげだ。
「―――待っている、人・・・・・・」
 お兄様、お父様、トリナたち。
 そして・・・ 私をずっと呼んでくれていたシウス様―――・・・

「答えは決まったようですね。」
 リークがリアの顔を見て笑みを浮かべる。
「・・・意地悪ね。」
 どことなく騙されたような気分でリアはじとっと彼を見た。
 けれどその表情はどこか吹っ切れた様子だ。
「まぁ、こちらの方が本物らしいわ。夢のリークは優しすぎたもの。」
 不意に息を吐いてリアが笑った。
 絶対答えは教えてくれない。
 自分で答えを見つけさせ、彼は答えまでの道を指し示すだけ。
 ただ甘えさせるだけが優しさじゃないと彼は知っている。
 忘れていたわ、貴方がそういう人だという事。
「戻るわ。私を待ってくれている人たちの所へ。・・・それが貴方の望みでもあるのでしょう?」
 彼は苦笑いしただけで否定も肯定もしなかった。
 けれどそれだけで充分だ。リアはちゃんとわかっているから。

 リークの手がリアの頬に触れる。
「目を閉じて。そして戻りたいと思えば戻れる・・・」
「ええ・・・」
 頷いて、リアは彼の手の上に自分の手を重ねた。
「でも その前に1つだけ、言っておきたい事があるの。」
 彼の顔を見上げる。
「たとえ貴方と居る事より戻る事の方を選んだとしても、私は貴方が誰よりも好きよ。愛してるわ。
 それだけは信じて―――・・・」
 彼の寂しげな表情に優しげな笑みが零れた。
「さようなら、私の大切な姫君・・・」
 リークのその言葉を最後にリアは目を閉じ、同時に意識が遠退いていく。

 さよなら リーク・・・ 私の大好きな人―――・・・



 ゆっくり目を開けると、そこにはあるべき物がちゃんとあった。
 赤と白とピンクのバラの装飾が施された天蓋。外から差し込む朝日で微かに見える。
 ロークワットの自分の部屋じゃない。
 戻ってこれたのだ。
「・・・かなり長い間眠っていたみたいね。」
 仰向けのままふぅとため息をつく。
 体が重く感じて力が入らない。
 きっと今鏡を見たら 見てられないほどボロボロになった自分が見られるかもしれないな、と思ったら
 可笑しくなって思わずくすっと笑った。

 時間が経てば少しは身体が動かせるようになった。
 そこで、さっきから気になっていた左手の温かさを確かめるために身体を横に傾ける。
 夢の中でもずっと感じていたあの温かい感触が何なのかすごく不思議に思っていた。
 見てみると ベッドの横に誰かが居るようだ。
「・・・シウス様。」
 今までの疲れがたまっていたのだろうか、すっかり熟睡した様子のシウスの寝顔が1番に目に入った。
 ベッドに突っ伏して、椅子に腰掛けたまま。
 けれど左手は絶対に離すまいとしっかりと握られている。
「貴方だったのですね・・・」
 私のためにずっと眠らずにいてくれたのですね。
 胸の奥が温かくなるような、とても幸せな気分になって リアは知らず知らずのうちに笑顔になっていた。
 起こさないようにそっと起き上がって、彼の梳いてないほったらかしの髪に触れる。
「おつかれさま。」
 起こすのは可哀想だったし、こうして寝顔を見ているのもいいかな、
 なんて思ってそのまま黙って見ている事にした。
 ―――手は繋いだままで。


 いつ目を覚ますのかしら と思っていたらわりと早く彼は気が付いた。
「―――!!?」
 急にがばっと顔を上げて、リアが見ているのには全く気づかず辺りを見回す。
 そして今までのが夢だと解るとほっとして胸を撫で下ろした。
「い、嫌な夢だな・・・」
 リアとリークが結婚式挙げて 自分もそれに呼ばれるってなんかすっげショックな・・・
 少しまだ動悸がおさまらない。
「どんな?」
 小さな笑い声と共に投げかけられた質問に、シウスは特に疑問をもたないまま考える。
「どんなって・・・ あんまり言いたくない事だけど・・・・・・」
 そこまで答えてはたと止まった。
「―――って え・・・?」
 ここに居るのは自分とリアの2人だけ。他に誰も居るはずが無い。
 トリナたちは休むようにと部屋へ帰らせた。
 そしてこの声は間違いなく・・・
「リ、ア・・・?」
 恐る恐るベッドの枕元に視線を向ける。
「はい。ご迷惑をおかけしました。」
 薄暗い中で、差し込む光に照らされて微笑う彼女。
 また起きてこうして話している。これは夢じゃないだろうか。
 呆けていまいち実感できていない様子のシウスが可笑しくて、リアは繋いだ左手を挙げて言った。
「ほら♪ 夢じゃありませんわ。」
「! あ、ゴメン!!」
 目が覚めたのか、我に返ったシウスは自分のしていた事が恥ずかしくなって慌てて手を離す。

 何をしていたんだ俺は!?

 必死だったとはいえ、不快な思いをしたかもしれない。
 と 思ったが、見たところ彼女の表情は少し不思議がっているくらいだった。
「? ―――私 シウス様のその手と呼びかけのおかげで戻って来れたのですよ。」
 え、と驚くシウスの手をリアは再び握り直す。
「貴方がいなければ私ずっとあのままでしたわ。」
 夢に取り込まれて嘘の世界から抜け出すことはできなかった。
 嫌な事は全て忘れて現実から逃げている弱い人間になるところだったの。
「あ、それからリークにも後押しされました。」
 "リーク"の名前が出た時にシウスの表情が微かに動いたのにはリアは暗くて気が付かない。
「私には待つ人が居る・・・ 彼に言われてそう思ったから私は戻ってきたんです。」
 そう言う彼女を見てると仕方ないけれど「俺」は「リーク」にはやっぱり勝てないんだなと思う。
 瞳が違う。俺には彼女にそんな表情はさせれないから。
「・・・シウス様。私が目を覚まさなかったら悲しんでくれますか?」
 "待つ人"・・・ 夢の中ではそう思ったけど。
 不意に心配になった。
 だって私とシウス様はよく考えたら出会ってそんなにないし、私は側室の1人に過ぎないもの。
「うん―――そうだな。絶対悲しんだよ。」
 予想に反して温かい答えが返ってきた。
「リアが目を覚まさなかったらと考えたら、俺の方が死にそうなくらい苦しかった。」

 カアァァ

「な、なんだか告白みたいなセリフですね・・・」
 耳まで真っ赤にして、リアはどう反応したらいいかわからなくて困った笑いを向けた。
 シウス様ってこんな言葉を平然と言う人だったっけ??
 言った本人は「確かにそうだな〜・・・」と少し考えてから、繋いでいた手にもう片方の手を乗せて彼女の方を見た。
「・・・好きだよ。」
 そして不意ににこっと笑う。
「!!?」
 もう限界で倒れそうなくらい顔から湯気が出そうだし、目はぐるぐる回ってる。
 こういう時は何と答えるものなんだっけ。
 ダメ、頭が回らない。頭の中はもうごちゃごちゃのパニックだ。
 そんな彼女を見て、彼は困った顔をした後に苦笑いをして手を離した。
「大丈夫だよ、言わなくても答えはわかってる。貴女がリークを愛してる事はよく知ってるし、
 そう簡単に忘れられない事も ちゃんとわかっているから。」
 ごめん、困らせるつもりは無かった。だから今まで言わずにおいたのにな。
「・・・ただ伝えたかっただけだから。今まで通りでいいよ。むしろ出来ればそうして欲しい。」
 何か言いたくて、でも何も言えない。
 彼女の気持ちを察してか、シウスはもう帰ろうと立ち上がった。
「トリナたちがそろそろ来る時間だから俺はもう帰るよ。とりあえずリアが目を覚ましてくれて安心したし。」
 温かくて消化の良い物を用意させるよ。
 彼の言葉にこくり 頷いて答える。それが今のリアの精一杯。
 ありがとうの言葉も出ない。
 変、こんな私。

 顔を真っ赤にして声が出ないリアにもう1度苦笑いをして彼は部屋を出た。




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