Tear Spring

第13幕「お前の幸せを願うよ。」
(第32回〜第34回)





 こちらも限りなく終わりの無い言い合いを続けていた。
 教える教えないで 噴水の前の2人は周りの視線も気にせずに争い続ける。
 けれどその話の内容はだんだんズレて 何が発端なのかわからなくなっているような気がしないでもない。


 暑くないのかな・・・

 ここより北出身の2人がこの炎天下の中で平気なのが不思議だ。
 すでに近くの木陰に入っていたシウスは、木に寄りかかって自分には経験の無い兄妹ゲンカを観察していた。
 そもそも彼にとって それ自体見るのも初めてだ。
 城に居るのは腹違いの弟妹だけで彼等の母親たちは俺と話す事を嫌がるからめったに会わない。
 唯一母親が同じである姉2人は年が離れていたせいか、喧嘩などした事は無くむしろ甘やかされていた。
 そして彼女たちも今は他国へ輿入れしてここには居ない。
 だからわからないのだ。

「どうしてあそこまで熱くなれるんだろう・・・・・・」
 何が2人をそうさせるのか 彼にはさっぱり分からない。
 大声を張り上げて、お互いの悪口を言い合って。
 昔はコレに手が出てリアは泣かされていたというから、それに比べればマシなのかもしれないけれど。
 得する事も無いし疲れるだけなのだから止めればいいのに。
「・・・本人たちにそんな気は全く無さそうだけど・・・・・・」
 呆れ混じりに呟いて、肩に落ちてきた葉を手に取る。
 そもそもどうして兄妹ケンカなんてするんだろう?
 今はともかく 昔の話の場合は避ける方法が無いわけじゃないのに。
 要するに近づかなければいいのだから。離れていればケンカなど起こらないのは考えればすぐにわかる。
 けれど、前に話を聞いた時そう言ったら「ケンカは仲が良い証拠ですから」と笑って言われた。
 ケンカしても泣かされても近くに居ないと寂しいから。
 だから一緒にいてケンカしてお互いの存在を確かめている。
 "仲が良くなければ話すらしません"という彼女の言葉には確かに納得できた。
 ・・・それでも無駄に体力使うのはどうかと思うんだけど。
「でも、羨ましいな・・・」
 お互い言いたい事をはっきり言える兄妹。その分信頼しあっているのもわかる。
 俺は弟妹たちが自分をどう思っているのかさえ知らないんだ・・・

「――――・・・?」
 ルディスの足元に何か光るものが落ちたのにシウスは気が付く。
 いい加減に周りの視線もあるし、止めるには良い頃合いだなと思ってついでにそれを拾いに行った。


「ルディス、落としたよ。」
 彼の足元のソレをひょいと拾って手渡す。
 今まで争っていたのがウソのように2人とも途端に静かになった。
「あ、悪い。気が付かなかった。」
 シウスに謝りながらそれを握り締める。
 ―――1つの指輪が通された金の鎖のネックレス。
 見た途端、リアがそれに反応した。
「ソ、レ・・・・・・」
 驚いたというよりどうしてそれがここにあるのかというような目でルディスを見る。
 気づいたルディスは彼女を見て苦笑いした。
 リアはコレをよく知っている。
 当たり前だ、そこにあるのは彼女がリークから貰った あの指輪なのだから。
「コレが俺にとってのリークの形見。・・・最期 アイツがくれた物だから。」
 愛用の剣は彼と共に棺の中で眠っている。
 本当はこれも入れるべきだったのかもしれないけれど。
 床に臥したリークが持っていてくれと頼んだ唯一の物だったから。
「―――話したの?」
「話したさ。・・・最期を看取ったのは俺だ。2人きりで話したのが最期だったんだ。」
 長い間意識を失っていたリークが目を覚ましてからほんの短い間。
 ほとんど聞いているだけの会話だったけれど。
「全て聞いたよ 何もかも。―――地獄の果てまで持って行くと誓っていた秘密まで、な。」
「"地獄"の果て・・・?」
 シウスだけでなくリアもそれに不思議そうな表情を見せる。
 ちらりとルディスが向けた目が合って、リアはきょとんとした。
「罪を犯したんだそうだ。だから天の神に召される資格が無いんだってさ。」
 けれど彼が気にしていたのはそれによってこの先リアが苦しむ事になるかもしれないという事。
 自分はどうなっても構わないが、それが心残りだと。
「罪って何なのかしら・・・」
 解らなくて考え込んでいる彼女の頭をぽんとルディスが叩く。
「・・・お前は気づかない方がいい。」
 えっ? と顔を見上げたら、心配そうな表情を一瞬だけ見せてすぐにシウスの方を向いた。
 もうその時にはそれを感じさせる顔は微塵も無く。
 リアは今の彼の言葉を考えた。

 私に関係ある事・・・?

 それですぐに答えが見つかるはずは無いのだが。
 すごく気になったけれど、彼の雰囲気からして絶対に教えてくれそうにない。
 それに、聞いてはならないような気もして。


「―――・・・から、私たちは何処に泊まるのかな?」
「あ、この屋敷の客室がちゃんと・・・」
「! お兄様 お泊りになるの!?」
 突然彼女が身を乗り出して聞いてきたので ビックリしたルディスが思わず仰け反る。
「今回は余裕があるから2、3日な。シウス、ひょっとして教えてなかった?」
「そういえば・・・ ああゴメン、言い忘れてた。」
 さんさんと真昼の太陽が照りつける。
 日に焼けてはかなわないと、シウスが2人を日陰に促した。

「明日辺り策略家と名高いキミの側近殿と話してみたいね。」
 フフフと楽しそうに笑うルディスを見て シウスの方は少し顔を引きつらせる。
「策略・・・ アレは口が上手いだけだと・・・・・・」
 それに誰もが丸め込まれてしまうのは確かなんだけど。
 その言い方はちょっとカッコ良過ぎないかなぁ?
「彼は頭がキレるんだよ。話すとけっこう面白そうじゃん?」
 勉強になるかもとか言ってまた笑った。
「ずっるーい! 私だってサーズと話したいですわ!」
「お前とだと会話持ってかれるからヤだね。」
 言って子供のようにんべっと舌を出す。
 睨み合って再び一触即発状態になったのを見ながらシウスがくすくすと笑った。
「その辺はサーズに決めてもらうよ。」
 似たもの兄妹ってコトなんだね。
 言い終わった後も 可笑しくてしばらく笑いが止まらなかった。


 その頃 サーズが小さなくしゃみをしていた事を3人は知らない―――


 ---------


 数日間の滞在が終わって 名残惜しさも残るがルディスも帰らなければならなくなった。
 元々 一国の王子が理由も無しに他国に滞在するなどそれだけで異例なのだが・・・
 これだけ長く居られる事の方が不思議だ。


 今日は晴れてはいるけれど風が少し強くて涼しかった。綿のような雲はいつもより速く流れていく。
「それじゃあ またな。」
 ルディスは入口で見送るシウスとリアに軽く手を上げた。
 ちなみに今ここにトリナの姿はない。それはもちろんウィルの為で。
 リアには今回 代わりにティーナが付いて来ていた。
 それでもウィルはそこに居たくなかったのか、さっさと外に出ようとしている。
「――― 今度からあまり来れないかもな。」
 そんな彼の後ろ姿を横目で見た後、ルディスは小さな笑みを漏らした。
「・・・え? 何故?」
 怪訝な表情でリアとシウスが聞き返す。
 気づいたサーズがシウスの後ろでくすりと笑ったのを見て ルディスは彼にその笑みを向けた。
「今度から連れてくる人間が居ないって意味。」
「知ったら皆さんショックでしょうしね。」
『・・・あっ。』
 そこでリアがぽんと手を打ち、シウスも同時に納得して頷く。
 ルディスから今回の人選の経緯は聞いていた。
 ウィルは今度からきっと来ないだろうし、他の人たちも聞けば絶対来る気にはならないだろう。
「・・・ま、1人残ってるけど。」
 その呟きで視線が4人の一斉にティーナの方を向く。それを受けて彼女は少々憮然とした表情で返事を返した。
「――― 私も早く見つけないといけませんわね。」
 その言葉でその場は笑いに包まれる。

「あ、そうだ。」
 去り際にルディスはリアを手招きで呼んだ。
 彼女が傍まで行くと 彼は周りには聞こえない程度の声で耳元に囁く。
「この前言い忘れてた事。・・・リークからの伝言だ。」
「リークから・・・?」
 その名前にリアはぴくりと反応を示す。
「"私がこの手で守りたいと本当に思えたのは 後にも先にも姫君だけです" ―――だってさ。」
 最後にクスッとルディスが笑ったのはリアの体温が上がっていくのを感じ取ったからだ。
 案の定 リアの顔はこれ以上上げようの無いくらい真っ赤なゆでダコのようだった。
「・・・もうっ あの人ってホントにっ・・・・・・」
 少し間を置いて 泣きそうな表情だけれど嬉しそうな声で呟く。

 いつも欲しい言葉を必ずくれるのね・・・ 何万回の「愛してる」より嬉しい一言よ。
 本当 泣きそうになるくらい・・・

 ルディスは微笑って軽くリアの頭を撫でた。
「じゃあ確かに伝えたからな。」

 "最後の意地悪です・・・" 微かに笑ってリークが言った言葉。
 リアに対してではなく「恋敵」に対しての。

 ――― 悪あがきかもしれませんけど 私はそんなに心が広くないんです。

 他の男にそう簡単に渡せない、そう笑って言ったのが懐かしい。
 もう今は笑い合えない相手の顔を思い浮かべる。

 ・・・まだ、もうちょっとってトコかな。

 安心と同情との間で多少複雑な気持ちになりながら、ルディスは今度こそ本当に別れの挨拶を告げて帰っていった。



「さっき、何話してたの?」
 部屋に戻ろうかと言ってしばらく、ちょうど半分くらいまで来たところで突然シウスが尋ねてきた。
 否、本当に突然というわけでもない。
 彼はさっきからもの言いたげな表情で見ていた。ただリアが気づいていなかっただけで。
 けれどリアにとっては突然の質問だったので 慌ててしまうのには十分なものだった。
「そ、そんな大した事では・・・」
「へぇ・・・」
 シウスの眉がぴくんと上がる。
 彼女のさっきの表情を見ていれば どんな話だったかくらいわかった。
「じゃあその"大した事ではない話"を聞いてみたいな。"大した事ない"なら話せるはずだよね?」
 うっ とリアが呻き声を漏らす。
「そう来ますかっ・・・!?」
「変に隠し事するからだよ。別に今さら隠す事でもないのに。」
 確かに彼との思い出はほとんど言い尽くした気もするけれど 何故かその言葉はぐさりと刺さって痛かった。
 理由は良くわからないけど きっと図星を指されたせい。
「―――で? 何話してたの?」
 そのにっこり笑顔に この勝負は負けだとリアは感じた。
「誰かに似てきましたよね・・・」

 クスクスッ
『??』
 その漏れたような笑い声は意外にも前から聞こえてきた。
「あいかわらず仲がよろしい事。」
 高い所で結った髪、体のラインを強調したような露出度の高い服。
 そして見た目ではなくその彼女が持つ雰囲気は大人の女性。
 彼女の事はリアも知っている、バーベナ=ルベーブ――― 他の側室たちすら一目置く1番最初の妃だと。
「バーベナ・・・」
 シウスの呟きが聞こえて リアはえっと彼の横顔を見た。
「本当 お可愛らしい会話ですわね。」
「・・・お前が言うと嫌味にしか聞こえないのだけど?」
 それが気に障ったのかシウスの声は低く、かつ表情は少々引きつっている。
「私は思った通りに述べただけですわ。"殿下"には何かお心当たりでも?」
 空気が何やら異様な感じだ。
 2人は対峙して 外の晴天と全く逆の雰囲気でその場を包んだ。
「その呼び方も違和感にしかならないね。」
「あら、殿下の言葉遣いにもおかしな所がありますわよ?」
「悪かったなっ!」
 あぁもう気分悪い。
 今までここを避けてきたのも忘れたかったからなんだ。
 ただ 今はリアに会いたい気持ちの方が強かったから。

「―――戻ろう リア・・・・・・ってアレ?」
 イライラを振り切るように横を向いたら 何故か隣に居たはずの彼女の姿がどこにもない。
「姫君ならすでにお部屋にお戻りになりましたよ。」
 訴えるかける瞳でサーズを見たら 彼は何食わぬ顔でそう答えた。
「ええっ!!?」


 ---------


 スタスタと心なしか早足で進む彼女の後ろを付いて行きながら、ティーナは納得のいかないこの思いをどうするかで
 悩んでいた。 
 相手が自分の仕える姫君だとはいえ、いや そうだからこそさっきのリアの行動には憤りを感じているのだ。
 ピタリと、そこでティーナの足が止まった。
 どうしても今ここで言いたい。

「――― 姫様っ!」
 呼び止めに応じてリアは立ち止まり後ろを振り向く。
 まるでこうなる事が理解っていたかのような表情だった。
「・・・何?」
 あえて知らないような素振りで尋ねる。
「どうしてあの場で戻られてしまうのです? 姫様らしからぬ振る舞いですわ。」
 遠慮もない ズバリと直球の質問。
 ここで回りくどい言い方をしてもはぐらかされる確率が高くなるだけだと踏んだのだろう。
「どうして、そう思うの?」
 極力抑揚の無い声で。感情は表に出ない。
「ああいった場合に身を引くのは自分が相手より下だと認める事になります。姫様がそれにお気づきではないとは私
 は思いませんので。」
 そう、リアでなくても、こういう「世界」の中で生きている者なら心得ている事だ。
 それを彼女がわからないはずは無い。
「下 だなんて・・・ 最初に言ったでしょう? 私は寵争いには興味が無いって。」
 苦笑を浮かべているリアをティーナは冷めた瞳で見返す。
「興味があっても無くても同じです。姫様はあの姫に子供っぽいと馬鹿にされたのですよ? 一言でも言い返すのが当
 然でしたわ。」
「・・・馬鹿に、されていたかしら・・・・・・?」
「されてましたっ 姫様はそういう所 鈍すぎますっっ」
 そうかしら?とあくまでおっとりペースを貫く彼女にティーナはイライラを募らせた。
 ペースを乱されるその態度ではなく、本心を見せようとしない頑固な意思の方に。
 姫君の何事にも動じない冷静さはよく知っている。
 けれど今はそれが不自然だと鋭いティーナは気付いていた。

「とにかくっ 姫様は遠慮などする必要は無いんです。むしろあの場で殿下を連れて行ってしまっても構わないのです
 から。」
「遠慮したつもりは・・・ しかも連れて行くって・・・」
 どう言い返せば良いものか困ってしまってリアの方が圧され気味になっていた。
 ティーナはトリナよりはっきり物を言う。
 しかも下手な誤魔化しは通用しないのでものすごくやり難い相手だ。
「だってそうではありませんか。殿下は姫様と部屋にお戻りになると仰ったのですよ? 途中から割り込んできたのは
 あちらの方です。姫様が引く理由は何処にもございません。」
 きっぱりと言い放つ。
 そんな彼女に何処まで誤魔化しきれるか。少し考えた。
「でも、何か大切な話かもしれないし、私が居たら話しづらい事もあるでしょう?」
 これは半分嘘。確かに戻った理由の1つではあるけれど。
 彼の知らない部分を不意に見せられて 居るのが正直辛かったというのもあった。
「あの2人、かなり親しそうな様子だったし 私が居ない方が話が進むと思うの。だからそんなに・・・ね?」
 リアに弱いトリナなら、ここで諦めたかもしれない。
 けれどティーナは違う反応を示した。
「そうですか。・・・ならばアレはどう説明しますか?」
「え?」


 今自分が歩いてきた方向から聞こえてくる力強く響く足音。
 ティーナが指差した方を見る前に "彼"は彼女のすぐ傍に来ていた。
「リア!」
 ビックリして目をぱちくりさせている彼女に、走ってきたそのままの勢いでシウスは続けた。
「お前は何で置いてくんだよっ!」
「え?? だってあの方と話があったように・・・」
「あるわけ無いだろう! どうして俺がバーベナと仲良く話をしなきゃなんないんだよ!?」
 "バーベナ"と呼んだ言葉にリアは何故だか 怒りにも似た嫌な感情を覚えた。
 他の側室たちには全て「姫」を付けるはずの彼が何故彼女にだけ・・・
「どうでしょうっ 名前で呼ばれるほど仲がよろしいんですからっ!」
 そう言ってプイっと顔を逸らす。

 カチンッ

「何だよ その態度! 無いって言ったら無いんだよ! つーかあってたまるか!!」
 さっきのバーベナとの会話で沸点が低くなっていたシウスの怒りはあっさり爆発してしまった。
「嘘! 普段は誰にでも笑顔で躱して去るだけじゃないですかっ!」
 感情を露にする事も全然無いのに!
 リアもリアで1度箍が外れると勢いが止まらない。
「信じろよっ!」
「何処を信じろって言うんですかっ!?」


「おや これは珍しい。シウス様と姫君が口論してらっしゃる。」
 息を切らすことも無く、おそらくゆっくり歩いて来たのであろうサーズは のんびりした口調でティーナの頭越しに
 呟いた。
「・・・貴方 本当に殿下の側近ですか?」
 普通自分も走って来ない・・・?
 呆れたように見るティーナに サーズはにっこり笑う。
「私はそのつもりですよ。それにわざわざ追いかけなくても何処に行くかくらい解ってますから。」
「それはそうですね。」
 2人とも止める気にはならないようで 滅多に見れないその口論をただ観察していた。
 いずれ終わるだろうと、それくらいの認識で。


「―――だ〜か〜ら〜ぁっ アイツとは何の関係も無いって!」
「見てれば何かあったくらい私にも解るんですからね! 下手に誤魔化しても無駄です!!」
 あの含みのあるお互いの表情といい、微妙な会話の内容からしても昔何かあったのは確かなのだ。
 今は無くても 私が来る前はきっと・・・
 その理由は女の勘とでも言うべきか。
「〜〜〜どうしてそんなに探る必要があるんだ!? リアが気にする事じゃないだろ!?」
「だって! 私には聞く権利があるん――――・・・ん??」
 ピタリと2人の声が止んだ。

 ・・・今のセリフ 変じゃない?

「変だな・・・」
「変ですよね・・・」
 どうしてこんなに熱くならなければいけなかったのか。
 急に冷静になった2人は同時に首を傾げた。

「〜〜〜・・・バーベナは幼馴染だったんだ。」
 やや投げやり気味に、シウスは突然そう切り出した。
 このまま誤解されたままというのはさすがに我慢ならない。
「アイツは父王の弟の長女、従姉姫だって言うのは知ってるだろ。だから仲が良かったんだよ 昔は。」
 自分の姉たちより年が近かったせいか 一緒に遊べる1番身近な女友達だった。
 それはまだ身分も何も関係なく遊べた頃の事。
「・・・知らなかったんだ バーベナの気持ち。俺は姉みたいだって感情しか持っていなかったから。」
 知ったのは彼女が側室としてココに来た日の夜。
 彼女が自ら名乗り出て来たと言った時に初めて気付いたのだ。
「そんな風に見てたのかと知ってからはもう前のようには戻れなかった。・・・それだけだよ。」
 本当にそれだけだ・・・
 嫌いじゃなかったけれどそれ以上の感情は持てない相手。
 それ以上は何も無いんだ 本当に。
「あ、あのっ シウス様・・・っ」
 俯き加減に顔を赤くしてリアはシウスの腕の裾を掴む。
「つい カッとなってスミマセンでした・・・」
「いや、俺もちょっと機嫌悪かったから君にあたっちゃったみたいで・・・」
 焦って答えた後、2人は見合わせてクスッと笑った。




←戻るにおうち帰るに次行くに→