Tear Spring

第17幕「待つことには慣れてるから。」
(第42回〜第45回)




「・・・殿下がお倒れになった日、ですか?」
 首を傾げてトリナは今聞かれたことをもう1度聞き返した。
 姫様の部屋から帰る際に「ついて来てくれ」と言われ、何事かと思ってみれば。
 突然廊下の真ん中で悩み相談とは。
「そうその日。記憶が無い時に私、何かリアにしたのかなと思って・・・」
「・・・何か、って・・・・・・」
 あまりに突拍子の無い事だったので、トリナの表情が変に強張った。
「ここ最近リアの態度が明らかに変だし。何かあったならあの日しかないから。」
 触ればビクつくし、必要以上に近づいたりすると逃げるし。
 ちゃんと笑ってはいてもどこか視線は合っていない。
 自分じゃなくても誰でも、彼女が変だという事には容易に気がつく。
「・・・ひょっとして嫌われたのかな・・・・・・」
 近づいたと思ったら離れて、いつまで経っても縮まらない心の距離。
 無理をして縮めようとは思わないけれど、せめて今のままで これ以上は離れたく無いと思う。
 でも自分で、しかも無意識のうちに、今までの努力を無にするような事をしてたかもしれないと思うと・・・

 フッとトリナの表情が和らいだ。
「―――心配する事はありませんわ。姫様が殿下を嫌いになるはずはありませんから。」
 彼女の一言は彼の頭に乗っかっていた暗雲をあっさり払い除けた。
 優しい笑顔のまま彼女は続けて言う。
「もう少し、待って差し上げてください。きっとすぐに元の姫様にお戻りになりますわ。」

 そう、きっとすぐ。
 言わなかったけれど 姫様はたぶん―――・・・・・・



 昼間の強い光は白いベランダに反射されて部屋の中まで入ってくる。
「姫様っ」
 部屋の大窓を開け放ってその前にテーブルを置き、リアはそこで本を読んでいた。
 つかつかと近寄って トリナはその本を取り上げて閉じるとテーブルの上に置く。
「殿下が心配なさっておられましたよ。」
 彼女はいつに無く厳しい態度で言った。
 置かれた本の上にトリナの手があるので本は取れない。
 リアは渋々トリナの方にちらりとだけ視線を向けた。
「殿下の元気の素が殿下を困らせてどうするんです。」
「う・・・・・・」
 やっぱり変だと気づかれていたと知って リアは低い呻き声を漏らす。
 視線は泳いでだんだんと逃げていった。足元の絨毯も眩しい。
 けれど変わらず見下ろされる視線はかなり痛かったので、トリナを無言で向かいの席に促す。
 本は当然の事ながら持って行かれてしまった。
 コレで誤魔化しも逃げも効かない。

「姫様。」
 上から抑えつけるような言葉。
 その後に続く沈黙がリアには耐え難い苦痛だった。
 聞かれなくてもその質問の内容はわかっている。そしてその答えも自分の中にある。
 後はその答えを言うだけなのだ。そしてその「場」はココにある。
 この沈黙がトリナがいつも自分に与える答えの場なのだから。

「だって・・・」
 観念したリアの呟きは聞き取るのがやっとなほど小さい。
「―――だって?」
「だって・・・・・・」
 ぎゅっと手に力を込める。
「だって無理なんだものっ!」
 悲痛に思い詰めた顔でリアはトリナを見た。
「普通にしようとしても顔は赤くなるし 身体は勝手に動くしっ!」
 勢いがついた言葉は止まらない。
「私が好きなのはリークなのに。そう言い聞かせても全然ダメなんだもの!」
 今まで自分がどんな態度だったかもわからなくて。
 どんな表情が普通で、今までなんと自分が言っていたのか。
 けれど彼が目の前に居れば頭の中は真っ白で、考えていた事は全て吹き飛んでいってしまう。
 顔が近づくだけで肩に力は入るし 身体はカチカチに固まってしまって。
「自分でもどうすればいいのかわからないの・・・」
 自分で自分が思い通りにならなくて、それがとてももどかしい。


「――― 認めないからでしょう。」
「・・・・・・何を?」
 聞き返した彼女の表情には僅かな動揺が見える。
 あえてそこには触れずに トリナは次の言葉を紡いだ。
「ご自分が殿下を好きだという事にはすでにお気づきなのでしょう?」
「!」
「気づいて、ただそれを認めたくないだけなのでしょう?」
 トリナの瞳がリアの瞳を捉える。
 そこから目を離せずに、リアは固い動きで首を横に振った。
「違・・・っ 私は、まだ・・・・・・っ」
「では、それならば何故「言い聞かせ」たりなさるのです? 普通ならば必要無いでしょう?」

 違う。

 ホントはそう言いたかった。だけどそれが言葉にならない。
 言えなかったのはそれが間違いだから?
 ―――私の中の私がもう意地を張るなと言っている。
 大人になりなさい、そう言ってるわ。

「・・・敵わないわね。」
 フッと肩の力を抜いてリアが応えた。
「―――でもね、10年だもの。10年間も想い続けてたのに 出会ってたった3ヶ月の人に心移るなんて。」
 信じられなかったの。トリナの言う通り 認めたくなかったのね。
「それにリークが死んでまだ1ヶ月だわ。だからそんな自分が許せなかったの。」
 今でもリークの事は好きよ。でも何時の間にか入れ替わってた。
 ・・・今、1番会いたいと思うのは彼だから。
「本当はまだ信じられないんだけれど。だってあり得ないもの こんな事って。」
 あれだけ好きだと言い続けてた自分がこんなに変わるなんて。

 雲が通り過ぎて一瞬の影を作る。
「・・・姫様、それは別に特別な事ではないですよ。」
 今までの厳しい態度とは一変して、柔かい声音でトリナが言った。
「今の自分も前の自分も、その気持ちは確かに本物です。心が変わる事は忘れるとは違いますから。好きだった
 気持ちも今の自分を作る為の思い出として ずっと残しておけるのですよ。」
「トリナ・・・?」
 まるで自分の事のように話す彼女に疑問を覚える。
 けれど彼女は笑みを浮かべるだけで 結局それに応えようとはしてくれなかった。
「心の変化は誰にも止められません。ですが決して悪い事ではないのです。」
 だけど、応えてくれなくてもその言葉は確かに私を救ってくれる言葉だ。
「―――年下のはずなのにトリナの方が大人ね・・・」
 溜息をついたら トリナはフフッと微笑って本を返してくれた。


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 このところ雨を知らない空は この部屋にも溢れるばかりの光をもたらしていた。


 へぇ・・・

 感嘆の息を漏らして バーベナは入口に立つその突然の来訪者を見る。
 あの時落ち込ませたから もし偶然会ったとしても逃げられるくらいに思っていたのに。
 彼女が自ら会いに来るのは予想外の出来事だった。
 バーベナは彼女を招き入れると、人払いを命じ 他の者は控えに下がらせる。
 対峙した2人はまずは表面上の笑顔で挨拶を交わした。

「事前の約束も無くおしかけてすみません。」
 あまりすまなそうに思っているようには感じられない顔で彼女は最初にそう言った。
「いえ、私の方も暇を持て余していますから。別に構いませんわ。」
「それは良かった。」
 笑顔であからさまにホッとされて、バーベナの表情が微かに引きつる。
 もうすっかり元に戻ってしまったようだ。
 けれど あれくらいで負けてしまわれても張り合いが無くてつまらない。
 ライバルとしては申し分ない相手だと見直した。

 彼女は風に誘われて窓の外をちらりと見、その眩しさに目を細めると視線をゆっくりと戻す。
「この時期って雨は降らないんですか?」
「えっ? ・・・え、ええ。」
 予想に反したコトを急に言い出すので 対応がわずかに遅れた。
 急いで戸惑いの表情を笑顔へと変える。
「10日以上降らない事が殆んどですわ。北の方で育ちになった姫君には暑いでしょうね。」
「ええ もう。夜も暑いなんて初めての経験で・・・」
 コロコロと笑って応える彼女の真意がまだ分からない。
「中庭の噴水の傍が涼しいのですけれど、あそこは日差しが強過ぎますしね。」
「それなら裏庭に大きな木がありますでしょう? あちらの木陰は風が通って涼しいですわ。」
「そうなんですか。今度行ってみますわ。」
 その後 話は何故か秋の収穫祭の事に飛んだ。
 お忍びで遊びに行く方法やイベントには何があるか等、幾つもの疑問を彼女は尋ねてくる。
 一応答えてはいるものの、だんだんバーベナの方も苛立ってきた。
 よく考えなくても 何故私がこんな質問に答えなくてはならないのか。
 彼女には殿下がいる。知りたければ彼に聞けば何でも答えてくれるはずだ。


「―――で、リア姫? 本題はどれですの?」
 会話に一区切りついたのを見計らって バーベナは呆れた調子で聞いた。
 わざわざ独りで来たのは こんなどうでも良い事を聞きたいからではないだろうと思うからだ。
 だからこちらも人払いをして2人きりで話す状況を作った。
「あ、そうでしたね。」
 すっかり忘れていたといったような様子でリアは向き直る。
「実は この間の返事をしたいと思いまして。」
「この間・・・?」
「はい。」
 向けられたのは違和感を覚えるほどスッキリとした笑顔。
 彼女の中で何かが変わったと、バーベナはその時直感していた。
「あの時はまだ自覚していなくて言えなかったのですけれど。」
 少し頬を赤らめる。けれど その表情は誇りを持って。
「私はシウス様が好きです。だから貴女にお譲りする気はありません。」
 自信に満ちた笑顔、そしてキッパリとした言葉。もうそこに迷いは無い。
「あの方を愛した時間は遠く及びませんけれど この想いはもう貴女に負けませんから。」
 自覚した今は、あの時感じた劣等感も消えている。
 認めて受け入れただけでこんなにスッキリした気分になれるなんて。

 リアの突然な宣言を聞いて驚いていたバーベナは、不意に楽しそうに笑った。
「素晴らしいライバル宣言ですわね。それでこそ殿下に愛された方ですわ。」
 それは嫌味でも何でもない、純粋に感心して出た言葉だ。
 やはり侮れなかった。
「貴女になら任せても構わないと、少しだけ思えますわ。」
「・・・少し、なんですね。」
「それは当たり前ですわ。そう簡単に引き下がるつもりはありませんもの。」
 お互いに顔を見合わせて フフッと微笑った。
 こういう関係で無ければ気が合う仲になれたかもしれない。
 しばらく2人は理由も無く可笑しそうに笑いあった。



 ねぇ リーク。
 貴方のコト 忘れたわけじゃないわ。
 だけどこの恋も本気なの。貴方と同じくらい彼も好きになってしまったから。
 ごめんなさい、もう自分の気持ちに嘘はつけない。
 私は彼が好き。
 今なら そう自信を持って言える――――・・・


 ---------


「もう1週間過ぎますよ?」
 夕暮れが迫る前、振り向きざまにトリナが言ったのに、リアはうっと唸って 動かしていた手を思わず止めた。
 少しずつ空の色がオレンジ色に染まってくる。
 部屋の燭台には明かりが灯され始めた。
「・・・分かっている、けれど・・・・・・」
 
 書きかけの手紙の筆を止め、終わろうとインクの蓋を閉じる。
 書いているのは兄への返事。
 ルディスも慣れてしまったのか、最近はマメに返してくれるようになった。

「何やってるんですか 全く。」
 トリナは呆れとほんの僅かな苛立ちを込めて言葉を投げる。
「だって・・・ こんなに難しいなんて思わなかったんだもの〜・・・」
 バーベナ姫に宣言してからもう1週間。
 しかしそれにもかかわらず、自分は未だ彼に気持ちを伝えていない。
 だからトリナの言葉も当然だし、強気な発言の割に臆病な自分に正直腹は立つのだけれど。
「私ったら いつからこんなに弱くなってしまったのかしら・・・・・・」
 はぁ と深い深い溜息をつく。
 リークに恋してた頃は何時だって積極的で、告白だってこんなにウジウジせずに即実行してたのに。
 振られたって構わないくらいの覚悟は持ってたのに。
 今は拒絶の言葉がすごく怖い。

「? どうして応えがYesと決まっている告白に悩む必要があるんです?」
 今度は心底不思議そうな様子で聞いてくる。
 けれどそれは当然の事。
 誰が見てもいつ見ても、彼の彼女への執着はかなりのものだと分かるはずだから。
 これでNoだったら きっと世界の価値観は変わってしまうだろう。
「決まってる?」
 けれど当の本人の考えは果てしなく消極的だ。
「―――そんな 絶対とは限らないわ。だから、できないんじゃないの・・・」
 彼が好きだと言ってくれたのはずいぶん前の話。
 大切にしてくれているのは分かるけれど、それは彼が優しいからだけかもしれない。
 バーベナと彼のやり取りを知らないリアには 拒絶という可能性が無いとは思えなかった。

「だからってこのまま伸ばしても意味無いですよ。」
 ここではYesと決まっているだろうと突っ込むべきかとも思ったが、それを言うと堂々巡りのややこしい話に
 なりそうだったので黙っておいた。
「それは そうなんだけど・・・」
 未だリアの答えは渋り気味だ。
 言うだけと実行するのとでは絶対的な差がある。
 何度も言おうと思ったけれど、いつも誤魔化して逃げてしまう。
 このままじゃいけないって頭では十分理解しているつもりなのだけど。
 どうしても、まだその勇気が・・・


「何の話?」
『!!?』
 聞こえるはずの無い声と 居るはずの無い人物の登場に、ぎょっとなって2人は彼を見た。
 リアは思わず椅子を倒す勢いで立ち上がる。
 にこにこ顔でトリナの後ろに立っていたのはまぎれもなく、
「シウス様!?」
「殿下!? え、今日はもう来られないご予定では・・・!?」
 今日は午後から居ないからと 午前中に来てらっしゃったはず。
 目を丸くして自分を見る2人に、シウスは心の中で「してやったり」という風に笑った。
「意外と早く終わってね。だから不意打ちで驚かそうと思って。」
 予想通りの反応だとシウスは上機嫌だ。
「―――前回は失敗してしまったからね。」
 小さく付け加えたセリフは2人には意味がわからなかったけれど。
 ・・・そう あの時はリアとリークの仲に気づいてしまったりして。
 思い出してシウスは軽く苦笑いした。

「で、何の話をしていたの?」
「え・・・ あ・・・」
 当人が居る目の前でそんな事は言えない。
 貴方に告白できないのを悩んでいる、なんて。絶対言えるはずも無い。
 でも誤魔化そうとすれば出来たはずなのに、その時は何故か言葉が浮かんでこなかった。
「姫様。」
 にこりと笑ってトリナがこちらを見る。
 その笑顔の裏には「言え」という脅迫めいた言葉が感じられた。
 彼女はその笑顔のままで2人から数歩下がる。
 それで確実に対面せざるを得なくなった。
 内心焦りを感じながら 足元辺りに視線を泳がせながら言葉を探す。
「えっと・・・です、ね・・・・・・」
 強く握り締めた手が汗ばんで 血が通わない指は先だけが赤い。

 〜〜〜〜もうどうにでもなれ!!

「あのっ!」
 意を決して顔を上げる。
 彼の深海の色の瞳には自分の顔が映っていた。
「? 何?」
 首を傾げて彼はこちらを見返している。
「シウス様 私は―――・・・」


 ---------


 言えると思った。
 このままの勢いに任せたらきっと伝えられる、今日こそはできる。
 そう思った。けれど。

 ――――どうして・・・?

 急に身体中の熱が冷え、彼女の表情は蒼白に近い色になる。
 喉まで出かかっていた言葉が突然消えてしまったのだ。
 瞬きの間に過ぎ去った場面が、その熱と共に持ち去ってしまったように。

 ――――どうして 今・・・

「リ、リア? どうしたの? 大丈夫??」
 潤んで霞んだ瞳がうろたえる彼の姿をとらえる。
 けれど自分でもどうしようもなくて リアは震える手で顔を覆った。
「・・・どうして・・・・・・?」

 ――――これはいけないことなの? ねぇ リーク・・・

 一瞬だけ、彼と重なったリークの姿。とても哀しそうだった。
 まるで私を責めてるみたいに感じたの。

 ――――ねぇ 私は何か間違ってる・・・?

「ごめんっ 何か悪い事言った?? まさか泣くなんて思わなかったから・・・」
 自分のせいだと思い込んだシウスは必死になって謝る。
 わたわたして どうにか慰めようと彼がすると、リアは首を振って否定した。
「違うんです・・・」
「え・・・?」
 違う。彼は悪くない。悪いわけがない。
「シウス様のせいじゃないんです。悪いのは―――・・・」
 そう、悪いのは・・・
「―――ごめんなさい・・・」
 悪いのは私。
 伝える勇気の無い私、まだ何かを怖れている私。


「・・・今日は もう帰った方が良いかな。」
 どうやら来たタイミングが間違っていたようだと シウスは感じていた。
 今の彼女は安定しているように見えて まだどこか不安定だ。
 そして その原因は自分にある気がする。確証は無いけれど、たぶん。
 まぁとりあえず 驚かすという目標は達成できた事だし・・・
「明日また来るよ。」
 ポンと軽く彼女の頭に手を乗せただけで、待たずにシウスは踵を返す。
 彼の影が離れた事でハッと気づいて リアが顔を上げた。
「――――」
 何か言おうとしたつもりは無かった。

 ――― 行カナイデ!

 けれど声無き声が 心で叫ぶ。
 頭の中は真っ白で、何かするつもりも無かったけれど。
 考える前に自然とリアの手は伸びていた。

 がしっ

「うわっ!?」
 急に後ろにかかった力に驚いて、そのままこけそうになったのを 絶妙のバランスで何とか堪える。
「――― な、何??」
 何が起こったのか まだシウスは分かっていなかった。
「あ、あのっ・・・!」
「え!? リア!!?」
 どうして!? と言わんばかりの表情で彼女を肩越しに見る。
 よく考えなくても他には居ないのだが リアにしては意外な行動に心底驚いてしまったのだ。
「あのですねっ・・・!」
 俯いた表情は恥ずかしいのか何なのか、触ったら火傷しそうなくらい赤い。
「今は、未だ言えませんけど・・・ いつか絶対言えるようになりますから!」
「は・・・?」

 きっといつか 勇気が持てたらすぐに言いたい。

「それまで待っていて下さい!」
「え? あ、うん・・・?」
 シウスには何の事だかさっぱり分からなかったけれど。
 言えた事で、リアの方はホッと緊張が切れる。
「良かった・・・ ありがとうございます。」
 やっと彼の顔を見上げて、安心した笑みを見せた。
 そうしたら今度はシウスの方が視線を空へと向けてしまう。

 〜〜〜どうしよう・・・ 可愛過ぎ・・・・・・

「?」
 などと思われている事は露知らず、リアは無防備な表情でシウスを見ていた。



「なんだか姫様らしくないわ。」
 少々不満げな様子でトリナは他の女官たちが居る所に戻って来る。
 絶対言うと思っていたのに。
「誰だって恋をすれば変わるものだわ。」
 くすくす微笑いながらティーナが応えた。
「―――無口なユキナは明るくなって、乱暴だったレイナは優しくなった。シーナは人見知りしなくなったし・・・」
 娘を慈しむ母親のような目で2人を見ていたティーナがトリナの方を向く。
 そしてもう1度微笑った。
「・・・そして貴女は心に余裕ができたわね、トリナ。」
「え・・・」
 ポカンとしているトリナに ティーナはくるりと背を向けて背伸びする。
「変わらないのは私だけ。・・・なぁんてね。」
「ティーナったら・・・」
 トリナもくすりと微笑った。


 ―――そういう風に考えればそうかもしれないけれど・・・

 笑うのを止めて くるりとリアとシウスの方を振り返る。
 今はすっかりいつもの笑顔の姫様に戻っていた。

 ―――でも、そういうのとはどこか違う気がするのよ・・・




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